Nicotto Town


ストーリーテーラーの集まる小さなカフェ

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運命の人

投稿者:Litsu☆

市の中心街大通りから少し離れると、いつから建っているのか?こちらが心配になるような
それほど大きくない時代物の建物があちこち散在していた。テナント看板がスズランみたいに
街の所々に花を咲かせ、通りの空気を彩っている。夜になればさぞかし妖しげな桃源郷へと
変わるのだろう。
「あんまり、夜には来たくない場所ねぇ…」
この中のあるビルの二階で、そのお店が開いていると聞いてやって来たのだった。
「あ、ここだ。」
外壁を黄緑色で塗装された昭和モダンな四階建てのビルの前で彼女は立ち止った。
イスラム洞窟のように口を開けた入口からタイル張りの階段を上ると、その店の看板が見えた。
「来夢魅館(らいむみかん)、ここね。」

カランカランカラン~♪

「ごめんくださぁ…い…」
「あら、お客様?」
部屋中に暗赤色ベルベットの垂れ幕が施され、奥には机と木製の椅子が二つ。その向こうに
声の主、来夢魅館のあるじが居た。長い黒髪を切りそろえ、黒のゴシックドレスをまとい
紫のマニキュア、紫のピアス、紫の唇、紫の瞳、というドールに見紛う姿だった。
机の上には水晶玉とクリスタルの原石、そして燭台には小さな火が灯されていた。
(わぁ…幾つだろ?この人、30~?40~?50~!まさに、美魔女だわ…)
「あの、先日お電話でお尋ねしたら、今日の2時に来るように言われたのですけど…」
「あ、そうでしたね。ではこちらへ…」
彼女は促されるまま、奥に入って木製の椅子のひとつに腰かけた。

「…で、なにを占って差し上げましょう?」

「あの…恋愛について、なんですけど、私、今まで何というか…あまりご縁に恵まれてなくて
 …その、このまま将来どうなってくのかな~って…。」
「なるほど、運命の赤い糸、その先を知りたい。そういう感じかしら?」
「はい!よろしくお願いします!」
来夢魅館の女主人は嫋やかにタロットをさばきケルト十字に並べ終えると、静かに語り始めた。
「もう…間もなくです。近い将来、あなたは運命の人と出会う…」
「ええー!ホントですか?!」
「はい。沢山の人々に祝福され、あなた達は出会うことになる…。」
「すご~い!」
「でも…何でしょう? あなた達は一風変わったパートナーシップになりそう。」
「と、言いますと?」
「そうですね……… 他の人より…もっと、とても深い絆。とでも言いましょうか?」
「へぇ~♪」

来夢魅館(らいむみかん)は的中率90%という裏の有名店だ。普段は紹介の客しか受けず
採算度外視でやっている変わった占い師だった。たまたま友達が直の連絡先を知り得たと
聞いたので、頼み込んで教えてもらい、今日の予約となった次第である。

「あの人が言うんだから間違いない!こうしてる間にも、運命の歯車は動き出してるのね~
 誰だろう?…う~ん今の知り合いには?居ないなぁ…っていうと、電撃的に?うぁ~♪」

その女主人に言われた言葉で、これほど舞い上がってしまうとは自分でも驚きだった。
彼女は雲の上を散歩してるような、そんなフワフワした気分で満たされていた。できれば
この喜びを、まわりの人々とも分かち合いたい。…そう思ってふと見ると…
そこは市の公共保健センターの前だった。献血用のバスも停まっている。

「こんなときは、何か良いことやっておきたくなっちゃうのよねぇ~♪」

その日は抜けるような青空と共に、ところどころ白い雲が浮かんでいた。もうすぐ雨の季節を
迎えつつあり、やがて来る容赦ない夏の日差しを暗示していた。


総合大病院のフロアの一角。少し不便な離れた場所にドクター用の喫煙室が設けられていた。

「なんだ? まだ煙草やめてないのか? そのうちガンになっちまうぞ?」
「お前、ここ来てそれ言うかな~? 医者の不養生ってやつだよ。それに煙草と肺ガンの
 因果関係はまだ証明されてないんだぜ?」

二人は一本目の煙草を吸い終えたころ、間を置いてお互い話しはじめた。

「こんな事ってあるんだな… あの男性、一週間と待たずに臓器提供者が現れるなんてな。」
「当日、事故死した女性が臓器提供カードを持ってたんだ。まあ……登録してまだ日が浅いのが、
 何となく気になってはいるんだがなぁ…。」
「めったなこと言うもんじゃないぜ? 天の思し召しってやつだよ。」
「…そうだな、一般人の遺伝子適合確率なんて数百万分の一と言われてるからな…」

つづきの煙草を出そうとした手が止まり、…そのまま奥に差し戻した。

「まさに、…運命の人だよ。」






管理人
ケニー
副管理人
-
参加
受付中
(今すぐ参加可能)
公開
全公開
カフェの利用
朝10時~夜24時
カテゴリ
自作小説
メンバー数
17人/最大100人
設立日
2024年02月18日

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