テーブルの下にぽとんと落ちた何か。
- 2024/09/02 09:46:46
テーブルの下にぽとんと何かが落ちた。
樫の木の大きなテーブルだ。
部屋には誰もいない。
何が落ちたのか、クローズアップする。
どうやら、黒く小さな何かの虫のようだ。
1センチにも満たない小さな。
それはにょきっと身を起こすと、2本の足で歩き出した。
足はもっと8本くらいあるのだが、一番お尻側の足で立ち上がったのだ。
家の中はしんと静まっていて、家主たちは留守のようだ。
それは意思があるような足取りでテーブルのあるリビングルームから廊下の方へと向かっている。
(それにとって)幸いなことに、リビングルームから廊下へと続くドアは開けっぱなしになっている。
もちろん、そのドアが閉まっていたら、それは廊下へは出れないだろう。
それは廊下へ出ると。
少し、飛んだ。
ぱたぱたと、小さな黒い羽を羽ばたかせて、1メートルほど飛ぶと、またのろのろと廊下の床に着地した。
それほど長くは飛んでいられないようだ。
それは5分くらいかけて廊下を通り、玄関へ着いた。
玄関のドアには郵便物を入れる入口があり、その入り口の隙間目掛けて、それはまた飛んだ。
うまくその郵便物の入り口に取り付くことができたそれは、隙間から外へ出た。
家の外は少し緑の丘になっていて、海が見える。
そこは、ウェールズのアベリストウィスという町だ。
それは家から丘に向かって歩き、また飛んで、また歩いた。
そうやって少しづつ、どうやら。
海へ行きたいようだ。
それは40分以上かけて、ようやくアベリストウィスの海へ着いた。
ごつごつとした岩に覆われた海で、右手には砂浜が見えるが、それが砂浜まで行くには、さらに時間がかかるだろうし、家からそこまでの距離の3倍はありそうだ。
しかし、それはビーチの方には目もくれず、真っ直ぐに海へ向かって立っていた。
海からは崖が切り立っている。
それは決意したように、パッと羽を広げると、海へ向かって飛び立った。
私たちは心配になる。
なぜなら、それはたかが1メートル程度しか飛ぶ力を持たない虫だからだ。
それが広大な海へ飛び立つなど、無謀で、まるで自殺のようにも見えた。
しかし、もちろん、それは自殺などするつもりはなく、ぱたぱたと懸命に羽を動かしていた。
しかし、案の定、やっぱり、それは2メートルくらいまでがんばったところで、どんどん降下していった。
そのまま落ちれば、海の波にさらわれて、そんな小さな虫など、ひとたまりもないだろう。
そんな私たちの心配などは役に立たず(なぜなら私たちは傍観者に過ぎない。彼に触れることも出来ない。)、小さな黒い虫はあおい海へとゆるやかに落ちていく。
それは懸命に羽を動かすことを諦めてはいないが、しかし、もうこのまま落ちるしか無いだろう。
やはり、それはそのまま海面へ落ちていく。
私たちの視点は海面までは行けずに、彼はどんどん小さくなり、やがて波の煌めきの中に見失ってしまう。
次に私たちの視点に見えたのは、かもめであった。
かもめは海面の上を気持ちよさそうに、あるいは、得意げに飛んでいる。
そのかもめの背中に、あの小さな黒い虫がくっついているのを見たとき、私たちはなんとも安心した。
いつの間にかそれに愛着を持っていたからだ。
それはかもめの背中と首の間くらいにくっついて。
かもめはそのまま太陽の方向へ飛び立っていく。
小さな黒い虫はどこへ行ったのか。
何をしに安全な家の中からわざわざ危険を冒して海へ来たのか。
私たちにはもう彼らを追う視点は持たなかった。
ここで本は閉じられたからだ。
しかし、小さな黒い虫はまだかもめの背中に乗っていて。
どこかへと旅立っていった。
ありがとうございます!
読んでいただいて、ありがとうございます!
このカフェに置いた本のコメントに、個人的にはあまり返信しないようにしてるんですね。
今回は、褒めていただいて嬉しいからコメントしちゃったけど(^0^)
というのは、実際の本っぽくしたくて、実際の本の場合は感想を何かに書いても、作者からの返信はほとんどないと思うので、その方が実際の本の置いてあるカフェっぽいかな〜?と思いまして(^-^)
もちろん、他の方が自分の書いた本に関するコメントに返信なさるのはご自由です。
ただ、個人的な感覚としては、たぶん、あまり返信しないようにしてるんですね。
たまに今回のようにお返事書くけど。
なので、もし、今後、もし、私が書いたものへのコメントについて私からの返信が無くても気になさらないで下さいね〜。
読んでいただいて、ありがとう〜!
この虫は地べたを這いまわる人間を暗示しているようにも思えます。
わたし達は彼(?)に共感し彼とともに新世界へ旅立つ夢を見るのです。