夜
- 2024/06/13 13:28:44
投稿者:ケニー
紙に描かれていた残像は、今はもうほとんど見えなくなってしまっていた。
私が見た残像を描き残しておいたのだが、それももう13年も前のことで、フキサチーフもかけてない鉛筆画は消えてしまうのだ。
窓際のロッキンチェアーに座って、小説に火を灯し、灰皿に置く。
めらめらと本が燃える炎に揺らめいて、窓の外の暗闇は濃く、黒い雫が滴っているようで、窓を開けていると夏の夜の匂いがしている。
朝はもうずっと来てない。
朝が失われてもう1年は経つだろうか。
紙に描いた残像はもちろん君の横顔で、君はもう死んだから、残っているのはこの一枚の紙だけになってしまった。
ただ、私は年老いてはいるが、悲しみなどに埋もれているわけではなく、しんしんと沈む夜に身を任せ、その冷たさを心地よくさえ思ってもいた。
窓の外に気配は無く、私が窓辺に座っている以外には、わずかに虫の鳴き声が聞こえているだけで、夏の夜はとても静謐であった。
歳を取るということは、それだけの分量の夜を持てるということなのだ。
若さは日中に活きるが、年寄りは夜の黒い雫の中で活きていくのだ。
やがて私の臓腑まで黒い雫で満たされてゆけば、私も夜になれるのであろう。
一枚の紙は手から滑り落ちて、ロッキンチェアーはもう主人を失って揺れるだけになる。
窓は開け放たれたまま、夜に満たされていく。
「夜の声」、ベルナール・ビュッフェの孤独、「卵を食う男」
それと、アーネスト・ヘミングウェイの悲しみ
「老人と海」
それでも、「日はまた昇る」
聖書の言葉。伝道者の言葉
フルマラソンで、まだまだゴールが見えない、30キロあたりで、
足が攣りはじめたら、もう歩くしかない
あと、10キロ以上ある。頑張ってごまかしながら、走るしかないじゃろ
前に向かって走れば、ゴールは近くなる