今日で1,230日も雨が続いてるんだ。
バカげた戦争でロシアも中国もアメリカもインドも北朝鮮もイギリスも、どの国もみんな核爆弾を打ちまくって人類のほとんどが滅亡してから、ずっと雨が降り止まないんだ。
おかげで僕が住むニュータウン光台以外はみんな水没しちゃってる。

僕はあの時、たまたま亡くなった被害妄想の強いおじいちゃんが「いつか核戦争で世界は滅亡するのじゃ！」って言って作った核シェルターの中で遊んでたから、助かったんだ。
きっともう日本には誰もいないかもしれない。
だって、日本にも核爆弾は6発も全国に打ち込まれたし、その上水没してしまったんだもの。
昔と違って今は核爆弾一つで東北地方を全部カイメツさせることが出来るんだってさ。
そんなもの打っちゃうなんて、バカみたいだろ？

僕は戦争の後、めちゃくちゃになったこの町の高台に一つだけ残ってた家に住んでる。
もともと住んでた人たちも亡くなったみたい。
このニュータウン光台も今僕がいる光台5丁目と6丁目の高台のところだけが水面からちょっと顔を出してるくらいで、あとは全部水の中なんだ。

はじめの3ヶ月くらい、僕は泣いてばっかりだったさ。だけど、少しづつ楽しみも覚えたんだ。
だって、この家の地下にはテレビゲームがたくさんあるし(きっと僕と同じくらいの歳の子供いたお金持ちの家なんだろう)、それにたまに雨に混じっていろんなものが降ってくるんだ。

いいかい？
例えば、これ。
素敵だろ？

美術の教科書に載ってたミロのビーナスみたいな白い石の彫刻の顔なんだ。
庭に落ちていたんだ。

あとはこれ。
鳥の羽なんだけど、こんなに大きいの見たことないだろう？
僕の腕と同じくらい大きくて、それに蛍光灯に照らすと、紫色に光るんだよ。

それからこれも。
この家の書斎にある本で調べたんだけどさ、懐中時計って言うんだ。
僕が気に入ってるのはこの蓋の裏についてる写真の女の子なんだ。
とても綺麗な子でしょ？

こんなふうによく雨に混じって素敵なものが落ちてくるんだよ。

うん、そろそろ行くよ。
またかけるね。
君の姿を見ると安心する。

そういえば、君はどこにいるの？