「地には平和を」 The Harmonizer
銀色の巨木の胞子が、動物の暴力的性向をなくしてしまうというアイデアの作品です。
それにしても、恐竜の滅亡の原因が平和をもたらす胞子であるというのは、一つのアイデアでしょうし、その同じ胞子が人類の第三次世界大戦を終わらせるというのも、一種の皮肉でしょうか。
「消されし時を求めて」 The Search
主人公のドレイクが、時間を行ったり来たりして、自分の失われた記憶を取り戻そうとする短編です。
タイムパラドックスがあるようでないところが、ハインラインの「時の門」を思い出させられました。
結構印象深い作品でした。
「宇宙シーソー」 The See-saw
後に「イシャーの武器店」の一部となった作品です。
そのような観点から見るせいか、中途半端な感じがしました。
「拠点」 The Rull
ヴォクトのオムニバス長編「ラルとの戦い」の中の一編です。
たぶん最後の部分なのではないかと思うのですが、人類が恐れていたはずのラルの弱点が食料にあるとは、あまりに陳腐過ぎるような気がします。
その一方で、長編「ラルとの戦い」を通読してみたい気もします。
「音」 The Sound
この作品は、地球に侵略してきた異星人を、子どもがやっつけるというものです。
翻訳作品集成のウェブサイト(http://ameqlist.com/sfv/vanvogt.htm#3085)によれば、この短編も「ラルとの戦い」の中の一編のようですが、僕にとっては、ちょっと「拠点」とは、異星人の印象が異なりました。
それにしても、子どもを異星人と戦わせるとは!
ちょっと酷な気がしました。
「呪縛の村」 The Enchanted Village
最後のどんでん返しのような落ちが何とも言えません。
それにしても、アメリカ人のような名前を使うことによって、主人公が人類であると思わせ、最後になって、人類ではないということが判明する構成は、フレドリック・ブラウンが好みそうなアイデア・ストーリーのように感じられました。
「野獣の地下牢」 Vault of the Beast
この作品は、野獣が人間に好意をいだき、あらゆる世界の支配者たらんとするその主人を最後に裏切るというものです。
作品の雰囲気に、古き良き時代のアメリカSFを感じました。
「モンスター」 The Monster
この作品では、人類が敵として描かれており、通常とは逆のシチュエーションとなっています。
異星人が絶滅した人類の一員を再生してしまい、最終的にその人間によって破滅させられてしまうのです。
この視点の逆転は、「呪縛の村」に通じるものがあるような気がします。
「キリエ」 ポール・アンダースン
Kyrie Poul Anderson
ルシファーと名付けられたプラズマ型生命と彼とコンタクトできる女性エロイーズの物語です。
ブラックホールに引き込まれるルシファーの最期の断末魔を未来永劫聞き続けなければならないエロイーズのこれからが心配です。
プラズマ型生命との心の交流を描いた非常に印象的な作品でした。
「妖精の棲む樹」 ロバート・F・ヤング
To Fell a Tree Robert F. Young
「惑星の生態系=自然」「入植者=自然を壊す現代人」という図式を感じます。
また、妖精のイメージが緑の中に浮かび上がり、強烈に頭の中に残っています。
物語の行き着く先が、半ばわかりながら、それでもそのせつなさに心を動かされてしまいます。
古き良き時代のSFの香りも感じられます。
非常に印象深い作品でした。
「海への贈り物」 ジャック・ヴァンス
The Gift of Gab Jack Vance
海洋生物とのコミュニケーションをメイン・テーマに、海洋惑星の資源をねらう人間を絡ませた作品です。
最初は、不幸なコンタクトから始まったものの、最終的には、未来への明るい展望で終わります。
海洋惑星の描写が印象的でした。
「狩人よ、故郷に帰れ」 リチャード・マッケナ
Hunter, Come Home Richard McKenna
植物と動物の中間のようなフィトという生物が登場します。
この生物は、フィトは、自分たちを再吸収することで、ほぼ永遠の生命を得ています。
また、自分たちの体内の生化学的変化により、疫病や最近などに対しても、耐性を作り上げてしまいます。
ある意味では、不老不死です。
ただ、意識というものが、なかった。
その意識が、どうやらモーディン人と出会うことによって、目覚めたようです。
このファースト・コンタクトは、フィトにポジティヴな刺激となり、ますますフィトは進化していきます。
今まであまり想像したこともないような宇宙生命体でした。
登場人物で、自然との共生をめざしているように思われるベルコンティ人の名前に日本系のものが多いことは、作者が意図的にそうしているのでしょうか。
もしそうであるとするならば、作者は、結構日本人の思想というか考え方についてよく知っているように思われます。
結構興味深く、かつ面白く読むことができました。
「おじいちゃん」 ジェイムズ・H・シュミッツ
Grandpa James H. Schmitz
この作品を読んでいて、途中から筏の<おじいちゃん>のおかしな行動の原因は、イエローヘッドにあるのではないかと思っていましたが、やはりそうでした。
作者の筆致からも、そのことをあえて隠そうともしていないように感じられました。
ある意味では、知性を持つことが、果たしていいことなのか、と作者に問いかけられているのかもしれません。
また、異生態系の作者による描写が印象深く感じられました。
ハヤカワSF文庫の記念すべき創刊ラインナップのうちの1作です。
相変わらず主人公は、とてつもないスーパーマン。
それでありながら、どこかナイーブなところがあり、人類に比べて突出した能力を持っているようには思えません。
どこか古き良き時代のSFの匂いがぷんぷんするのも、いかにもヴォクトらしいように思われます。
逆に言えば、最近のSFにあるような、本物らしさというかリアリティーがあまり感じられません。
どちらかと言えば、昔感じたセンス・オブ・ワンダーを懐かしむといった感じです。
話の筋も、それほど入り組んでいません。
ラストのハッピー・エンドも唐突感が否めません。
とは言うものの、それなりに面白く読めた作品でした。
「宇宙嵐のかなた」(2015/11/02読了 原題:MISSION TO THE STARS 作者:A.E.ヴァン・ヴォクト(A.E.VAN VOGT)訳者:浅倉久志 1970/09/30 2刷 ハヤカワSF文庫3)
「武器製造業者」とシリーズを構成する作品です。
シリーズ中の時系列では、この作品の方が前ですが、実際に書かれたのは、この作品の方が後です。
「武器製造業者」で主人公のヘドロックについてある程度わかってしまっていたため、比較的すんなりと読むことができたのではないかと思います。
ヴォクトの長編は、筋がいりくんでいて、イメージもワイドスクリーンバロックの元祖と言われるだけあって、結構派手なのでなかなかすんなりと読めないことが多いのですが、この作品については、出版された順番に読んで正解だったのではないかと思います。
しかしながら、あまりにも時間シーソーというアイデアが秀逸であるため、他の印象が薄れてしまっています。
また、人物の造形も、それほど深くなく、十代の頃に読んだ印象に比べるともう一つと感じてしまいました。
「イシャーの武器店」(2015/09/27読了 原題:THE WEAPON SHOPS OF ISHER 作者:A.E.ヴァン・ヴォクト(A.E.VAN VOGT) 訳者:沼沢洽司治 1969/02/14 7版 創元推理文庫739)
以下の通りです。
「地球最後の砦」(2015/08/28読了 原題:EARTH'S LAST FORTRESS 作者:A・E・ヴァン・ヴォクト(A.E.Van Vogt) 訳者:浅倉久志・伊藤典夫 1971/06/30 発行 ハヤカワSF文庫28)
やっと、読了。
大変、面白かったです。
ハインラインを思い出します。
A.E.V.ヴォクトの初期の中短篇2作をカップリングした中短篇集です。
古き良き時代のSF臭ぷんぷんです。
「地球最後の砦」 Earth's Last Fortress
作品最後の文章「気のどくに、なにも知らないスーパーマン!」で有名な中篇です。
途方もないというか荒唐無稽なアイデアをこれでもか、という程ぶちこんでごった煮にするような感じです。
ストーリー・ラインも少し複雑になってきています。
ただ、面白さを追求するという熱意のようなものは感じられます。
僕自身が古き良き時代のSFが好きなのは、そのためかもしれません。
「消されし時を求めて」 The Search
日本おりじなるの短篇集「拠点」にも収録されていた作品です。
何度読んでも、面白く感じられます。
果てしない廊下をラルフ・ドレイクがうろつきまわるところはアシモフの「永遠の終わり」を何となく思い出してしまいました。
ヴォクトの長編であるわりには、それほど入り組んでいない構造の長編です。
ヴォクトの好きな不死人が登場します。
しかし、主人公のスティーヴンズは普通の人間。
ロボット宇宙船が埋まっている丘の上に建つ屋敷を中心に不死人の争いがあり、最終的にロボット宇宙船の知識を得たスティーヴンズの活躍によって陰謀によって権力を得ようとしていた不死人が滅び、スティーヴンズも不死人と結婚して、ハッピー・エンド。
読んでいるときは、それなりに楽しみましたが、それでも、丘の上の屋敷のイメージ位しか印象に残っていません。
古き良き時代のSFといったところでしょうか。
「ロボット宇宙船」(2015/07/28読了 原題:The Mating Cry 作者:A.E.ヴァン・ヴォクト(A.E.Van Vogt) 訳者:川村哲郎 1968/12/10 発行 Q-TブックスSF)
「地には平和を」 The Harmonizer
銀色の巨木の胞子が、動物の暴力的性向をなくしてしまうというアイデアの作品です。
それにしても、恐竜の滅亡の原因が平和をもたらす胞子であるというのは、一つのアイデアでしょうし、その同じ胞子が人類の第三次世界大戦を終わらせるというのも、一種の皮肉でしょうか。
「消されし時を求めて」 The Search
主人公のドレイクが、時間を行ったり来たりして、自分の失われた記憶を取り戻そうとする短編です。
タイムパラドックスがあるようでないところが、ハインラインの「時の門」を思い出させられました。
結構印象深い作品でした。
「宇宙シーソー」 The See-saw
後に「イシャーの武器店」の一部となった作品です。
そのような観点から見るせいか、中途半端な感じがしました。
「果された期待」 Fulfillment
人間と機械の融合がこの作品のテーマなのでしょうか。
今一つ、読んでいて乗り切れませんでした。
「拠点」(2015/07/05読了 原題:The Rull and Other Stories 作者:A・E・ヴァン・ヴォクト(A.E.Van Vogt) 編者:早川書房編集部編 訳者:稲葉明雄他 1969/07/31 3版 ハヤカワSFシリーズ3085)
日本で編まれたヴォクトの短編集です。
今まであまり印象が強くなかったヴォクトの短編ですが、なかなか面白かったです。
「拠点」 The Rull
ヴォクトのオムニバス長編「ラルとの戦い」の中の一編です。
たぶん最後の部分なのではないかと思うのですが、人類が恐れていたはずのラルの弱点が食料にあるとは、あまりに陳腐過ぎるような気がします。
その一方で、長編「ラルとの戦い」を通読してみたい気もします。
「音」 The Sound
この作品は、地球に侵略してきた異星人を、子どもがやっつけるというものです。
翻訳作品集成のウェブサイト(http://ameqlist.com/sfv/vanvogt.htm#3085)によれば、この短編も「ラルとの戦い」の中の一編のようですが、僕にとっては、ちょっと「拠点」とは、異星人の印象が異なりました。
それにしても、子どもを異星人と戦わせるとは!
ちょっと酷な気がしました。
「呪縛の村」 The Enchanted Village
最後のどんでん返しのような落ちが何とも言えません。
それにしても、アメリカ人のような名前を使うことによって、主人公が人類であると思わせ、最後になって、人類ではないということが判明する構成は、フレドリック・ブラウンが好みそうなアイデア・ストーリーのように感じられました。
「野獣の地下牢」 Vault of the Beast
この作品は、野獣が人間に好意をいだき、あらゆる世界の支配者たらんとするその主人を最後に裏切るというものです。
作品の雰囲気に、古き良き時代のアメリカSFを感じました。
「モンスター」 The Monster
この作品では、人類が敵として描かれており、通常とは逆のシチュエーションとなっています。
異星人が絶滅した人類の一員を再生してしまい、最終的にその人間によって破滅させられてしまうのです。
この視点の逆転は、「呪縛の村」に通じるものがあるような気がします。
「スラン」と並ぶヴォクトの代表作です。
初めて読んだのは中学1年生のときだったと記憶しています。
沼沢洽治訳の創元推理文庫でした。
この作品は、4種類のモンスターに遭遇する宇宙船ビーグル号の冒険をオムニバス風に描いています。
最初は、クァール。
たぶん、この作品の中でも、最も有名なモンスターでしょう。
また、雑誌の初出である「黒い破壊者」から結構書き直され、この作品を通しての主人公であるグローヴナーも登場するようになります。
しかし、むしろ僕にとっては、考古学者であるコリタのほうが、印象深かったように思われます。
モンスターとの戦いは、すべてコリタの、文化を歴史段階的に捕える史観から得たヒントによって解決されているからです。
2番目のモンスターのリイム人然り、3番目のモンスターのイクストル然り、4番目のモンスターであるアナビス然りです。
それぞれのモンスターは、もうこれ以上ないと思われる位、不死身で全能であるように思われながら、グローブナーを中心とする地球人に打倒されてしまいます。
このモンスターとの戦いと並行してビーグル号内での、科学者の権力闘争が絡んできます。
作者の筆致によって、読者は次第にグローヴナーに敵対するケントを敵役として受け入れていき、最終的にケントがグローヴナーの軍門に下ったことで、その争いに決着がつくことによって、安堵することになります。
ある意味では、パターン化された帰結と言うことができるでしょうか。
いずれにせよ、この作品が「スラン」と並ぶヴォクトの傑作であることは、誰も否定できないでしょう。
「宇宙船ビーグル号」(2015/05/20読了 原題:THE VOYAGE OF THE SPACE BEAGLE 作者:A.E.ヴァン・ヴォクト(A.E.VAN VOGT) 訳者:浅倉久志 1968/12/31 初版発行 世界SF全集17所収)
「黒い破壊者」 A・E・ヴァン・ヴォクト
Black Destroyer A.E.Van Vogt
あまりにも有名な「宇宙船ビーグル号」の冒頭のエピソードの雑誌初出版です。
長編の冒頭とは異なり、情報総合学者のエリオット・グローヴナーが登場しません。
その一方で、日本人考古学者のカリタは、しっかり存在感を示しています。
彼の文明の段階による史観は、ビーグル号内部に侵入したケアルを分析し、解決策を導き出すことに寄与します。
ケアルの側からの描写も効果的であり、作品に深みを与えていると思います。
期待に違わぬ、傑作だと言えるでしょう。
「黒い破壊者」(2015/05/13読了 原題:Black Destroyer and Other Stories 編者:中村融(T.Nakamura) 訳者:中村融他 2014/11/28 初版 創元SF文庫 ン-6-5
「キリエ」 ポール・アンダースン
Kyrie Poul Anderson
ルシファーと名付けられたプラズマ型生命と彼とコンタクトできる女性エロイーズの物語です。
ブラックホールに引き込まれるルシファーの最期の断末魔を未来永劫聞き続けなければならないエロイーズのこれからが心配です。
プラズマ型生命との心の交流を描いた非常に印象的な作品でした。
「妖精の棲む樹」 ロバート・F・ヤング
To Fell a Tree Robert F. Young
「惑星の生態系=自然」「入植者=自然を壊す現代人」という図式を感じます。
また、妖精のイメージが緑の中に浮かび上がり、強烈に頭の中に残っています。
物語の行き着く先が、半ばわかりながら、それでもそのせつなさに心を動かされてしまいます。
古き良き時代のSFの香りも感じられます。
非常に印象深い作品でした。
「海への贈り物」 ジャック・ヴァンス
The Gift of Gab Jack Vance
海洋生物とのコミュニケーションをメイン・テーマに、海洋惑星の資源をねらう人間を絡ませた作品です。
最初は、不幸なコンタクトから始まったものの、最終的には、未来への明るい展望で終わります。
海洋惑星の描写が印象的でした。
久しぶりに読むSFのアンソロジーです。
作品それぞれが印象深く、水準の高いアンソロジーということができるでしょう。
「狩人よ、故郷に帰れ」 リチャード・マッケナ
Hunter, Come Home Richard McKenna
植物と動物の中間のようなフィトという生物が登場します。
この生物は、フィトは、自分たちを再吸収することで、ほぼ永遠の生命を得ています。
また、自分たちの体内の生化学的変化により、疫病や最近などに対しても、耐性を作り上げてしまいます。
ある意味では、不老不死です。
ただ、意識というものが、なかった。
その意識が、どうやらモーディン人と出会うことによって、目覚めたようです。
このファースト・コンタクトは、フィトにポジティヴな刺激となり、ますますフィトは進化していきます。
今まであまり想像したこともないような宇宙生命体でした。
登場人物で、自然との共生をめざしているように思われるベルコンティ人の名前に日本系のものが多いことは、作者が意図的にそうしているのでしょうか。
もしそうであるとするならば、作者は、結構日本人の思想というか考え方についてよく知っているように思われます。
結構興味深く、かつ面白く読むことができました。
「おじいちゃん」 ジェイムズ・H・シュミッツ
Grandpa James H. Schmitz
この作品を読んでいて、途中から筏の<おじいちゃん>のおかしな行動の原因は、イエローヘッドにあるのではないかと思っていましたが、やはりそうでした。
作者の筆致からも、そのことをあえて隠そうともしていないように感じられました。
ある意味では、知性を持つことが、果たしていいことなのか、と作者に問いかけられているのかもしれません。
また、異生態系の作者による描写が印象深く感じられました。
センスワンダーでしたね。^^
ヴォクトの3番目に出版された長編です。
一読して、この作品は、「武器製造業者」同様、非常に粗い感じがしました。
次々といろいろな事件が起こり、主人公のギルバート・ゴッセンは、何が何だかわからないうちに何とかそれらを切り抜けていくのですが、事件の謎が解決されないうちに、その次の謎が、また出てきます。
謎のごった煮のような状況のため、たぶん雑誌連載当時の読者も混乱したのでしょうか、両極端の評価だったようです。
最後になっても、謎は解決しきらず、クリフハンガーのように、次作に続くというような結末でした。
この作品を初めて読んだのは、たぶん中学生か高校生だったと思うのですが、我ながら、どこまでこの本の内容を理解したり、理解できなかった部分を認識できたりしたのか、と思ってしまいます。
正直言って、当時に比べて、僕の中で、この作品の評価は下がってしまいました。
「非Aの世界」(2015/03/25読了 原題:THE WORLD OF NULL-A 作者:A・E・ヴァン・ヴォクト(A.E.Van Vogt) 訳者:中村保男 1969/02/07 6版 創元推理文庫767)
ヴォクトの2番目に出版された長編です。
この後に書かれた「イシャーの武器店」と二部作をなしていますが、物語の時系列的には、この作品のほうが後の時代のものになっています。
「スラン」に比べると、人についての書き込みが粗い感じがします。
言い過ぎることを承知で言えば、作品を完成させる前の粗筋というか、梗概のような感じもします。
最後にイネルダがあっさりと生き返らせられるところなどは、ご都合主義もいいとこのようにも思えます。
また、主人公を超人としているものの、あまりにもその言動が普通人過ぎるように思われます。
宮殿にいろいろな仕掛けがあることについても、リアリティーを前提に考えると、ちょっと無理な感じがします。
「スラン」が素晴らしかっただけに、かなり見劣りがする作品になってしまっています。
「武器製造業者」(2015/02/26読了 原題:THE WEAPON MAKERS 作者:A・E・ヴァン・ヴォクト(A.E.Van Vogt) 訳者:沼沢洽治 1969/02/21 5版 創元推理文庫740)
ヴォクトの処女長編です。
超能力テーマというか、新人類テーマの古典です。
読んでいて、あまり古さを感じませんでした。
若干、原子力の扱いに、少し古さを感じましたが、それでも、旧人類と対立する新人類の苦悩というのは、今もって古くなっていないのではないでしょうか。
ジョミー・クロスのいくつかの年代ごとのエピソードを積み重ねていく手法はヴォクトの特徴と言えるのではないでしょうか。
ただ、スランがあくまでも性善であるというのは、今書かれるとするならば、ちょっと扱いを考えなければならないのではないか、とも思ってしまいました。
今から75年前に書かれたSFとは思えません。
面白く読了しました。