古い窓からは 港の波がみえた
きみはしづかに 絵の具の箱をひらき
見慣れたレンガの 翳(かげ)るゆくへを
だまりながら ただ見つめていた人びとの声は 風のやうに通りすぎ
坂道には つめたい雨がふりそそぐ
食べるための日々の にがさのなかで
きみはひそやかに 光をあつめていたいまはもう 筆をおいた部屋...
古い窓からは 港の波がみえた
きみはしづかに 絵の具の箱をひらき
見慣れたレンガの 翳(かげ)るゆくへを
だまりながら ただ見つめていた人びとの声は 風のやうに通りすぎ
坂道には つめたい雨がふりそそぐ
食べるための日々の にがさのなかで
きみはひそやかに 光をあつめていたいまはもう 筆をおいた部屋...
I. 蛍の丘
雲はちぎれて空はみづいろに澄み
丘の小径をふりかへり見れば
草の葉末にちひさな火屋(ほや)がともる
風はなやかに木々の梢をゆするいつか失はれたあの日の約束が
もいちどめぐりくる季節のなかで
おもひでのやうに野辺をただよふ
かなしみを忘れたやうにまたたくああ それは過ぎし日の夢のあかし
...
雲はちぎれて空はみづいろに澄み
丘の小径をふりかへり見れば
草の葉末にちひさな火屋(ほや)がともる
風はなやかに木々の梢をゆするいつか失はれたあの日の約束が
もいちどめぐりくる季節のなかで
おもひでのやうに野辺をただよふ
かなしみを忘れたやうにまたたくああ それは過ぎし日の夢のあかし
くらい夜のしじ...
小川のせせらぎは銀のすずに似て
満月の青いひかりをくだいて流れる
くさむらの影からあふれだすものは
よるのしじまをたたくひかりのつぶひとつが燃えれば またひとつが応へ
水面のつきかげをまたいでゆく
それは見えない楽師たちのかなでる
やさしくかなしい夜の協奏曲(コンチェルト)ああ あかるい月夜のあふれ...
小川のひかりは冷たく冴えかえり
満月の青い円光にみちているのに
森の奥の 古い教会の窓からは
ただ寂しい鐘の音がひびいてくるそれは過ぎ去った日々のうたのやうに
蛍のあわいまたたきを震はせ
くらいしじまのなかへ消えゆく
一つのかなしい祈りのやうにああ あんなにも優しかったおもひでが
この夜のつめたい水...