サンジェルマンの教会の影が
石畳の上で 痩せこけた指のように伸びる
太陽は 安物のバーボンをぶちまけたような
不機嫌な色で セーヌの向こうへ沈んでいった「ドゥ・マゴ」のテラス席
冷めたエスプレッソに 誰かの嘘を混ぜて飲み干す
ヘミングウェイが座った椅子も
今は 流行りの香水と 虚飾の笑いに汚されてい...
ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。
サンジェルマンの教会の影が
石畳の上で 痩せこけた指のように伸びる
太陽は 安物のバーボンをぶちまけたような
不機嫌な色で セーヌの向こうへ沈んでいった「ドゥ・マゴ」のテラス席
冷めたエスプレッソに 誰かの嘘を混ぜて飲み干す
ヘミングウェイが座った椅子も
今は 流行りの香水と 虚飾の笑いに汚されてい...
風のなかに だれもいない客車をひいて
銀のレエルは 光のなかへ 消えてゆく
青いあざみの花が 窓をのぞき
ひび割れた椅子に ひるねの影をおとす汽笛を鳴らしておくれ なつかしい声で
あの遠い 音楽のような 村のために
けれど 石炭の熱(いき)は やさしくさめて
機関車は ただ草原の波を わけてゆくどこ...
萌黄色の波が 丘から丘へと あふれだし
わかくさの香りは 風の指先に ふるえている
陽炎のむこう 桃色の霞(かすみ)が たなびけば
汽車は 光の絵具で 縁どられた まぼろしのよう耳をすましておくれ あの遠い 鳥の声を
それは 見えない空の どこか高い場所で
だれもいない客車のために 歌われる 午後の...
野原のすみで 光の糸が もつれあえば
春の陽炎(はるひがえり)は ゆらゆらと 立ちのぼる
そこに だれもいないはずの 汽車がいて
銀色の吐息を 空に ほどいてゆく見つめれば 風景は 淡い水彩のよう
鉄の重みも わすれられた 古い切符も
みな 陽光(ひかり)のなかに 透きとおって
どこまでが 夢なのか...
だれも乗せない しずかな鋼(はがね)のからだが
風に吹かれる 草の海をゆらしてゆく
銀のレエルは 天の河へと つづいて
星屑を ひとつぶずつ 窓辺にこぼした石炭の火は 遠いむかしの 夢のなごり
錆びたバルブは やさしい溜息をつく
もう どこへも急ぐ必要はないのだと
機関車は 夜の深みに 身をまかせて...