午前五時三十分。
闇に消え損ねた俺は、うらぶれた安ホテルの部屋にいた。
壁に掛かった錆びた十字架が、斜めに傾いている。
誰も救わなかった、誰も救えなかった、鈍い鉄の塊だ。鏡に向かい、冷たい水で顔を洗う。
だが、そこに映る俺の顔は、ひび割れて歪んでいた。
お前を突き放した瞬間に、俺の手で叩き割った割れ...
午前五時三十分。
闇に消え損ねた俺は、うらぶれた安ホテルの部屋にいた。
壁に掛かった錆びた十字架が、斜めに傾いている。
誰も救わなかった、誰も救えなかった、鈍い鉄の塊だ。鏡に向かい、冷たい水で顔を洗う。
だが、そこに映る俺の顔は、ひび割れて歪んでいた。
お前を突き放した瞬間に、俺の手で叩き割った割れ...
まぶしい初夏の ひかりが青空にみちるとき
小鳥のさえずりが 森の奥からきこえてくる
世界はこんなに たのしげに歌っているのに
わたしの心だけが 切ないなみだに暮れていますそよ風が やさしく草の葉をゆらしてゆき
きらめく木漏れ日が わたしの影を浮きぼりにする
いくら涙をふいても あとからあとからあふれ...
午前五時。
闇に消えたはずの俺の足が、なぜか止まる。
雨はまだ、路地裏の泥を洗い流し続けている。
お前を突き放したはずの胸の奥で、
名前のない痛みが、静かに疼きだした。マクダラのマリア。
かつて罪に汚れ、それでも誰よりも激しく泣いた女。
彼女の涙は、許しと救いの始まりだったという。だが、この雨に濡れ...
午前四時十五分。
雨の路地裏は、まるで底のない黒い沼だ。
お前の震える声も、すがるような視線も。
すべては激しい雨音のなかに、深く沈んでいく。お前は俺のすべてを売った。
たった三十枚の、冷たい銀貨のために。俺は一度も振り返らない。
お前がその場に崩れ落ちる気配だけが、背中に届く。
差し伸べられた手も...
なみは 無数の宝石のやうにひかる
なみは 無数の宝石のやうにひかる
けれど 夜の影がそれをひとつづつ消してゆく
けれど 夜の影がすべてを覆ひ隠してゆくゆくえを忘れた鳥が 一羽だけ
きらめきを失ふ水のまにまに 消えてゆく
色をうしなふ闇のゆくすえがあるばかりひと声の汽笛がひびいた
光をひき裂くやうな...