おすがり地蔵尊秘話(27)
- カテゴリ: 自作小説
- 2018/03/10 18:07:54
これが民衆の力なのだろう。法会が始まる前には地蔵尊の周囲は色とりどりの花で飾られ、用意されたお供え物の大きな台に饅頭やらスナップ菓子、よもぎ餅、チョコレート、それにお餅などが山盛りに供えられ、お酒の一升瓶が三本も並べられていたのには驚くばかりであった。それだけではない。地蔵像の発見ということで注目...
これが民衆の力なのだろう。法会が始まる前には地蔵尊の周囲は色とりどりの花で飾られ、用意されたお供え物の大きな台に饅頭やらスナップ菓子、よもぎ餅、チョコレート、それにお餅などが山盛りに供えられ、お酒の一升瓶が三本も並べられていたのには驚くばかりであった。それだけではない。地蔵像の発見ということで注目...
土中から地蔵像が掘り出されたというニュースは、あっという間、地域に広がった。私の家主である峰平かよ子は玄峰寺の住職、宝田貴信を伴い、駆けつけてきた。 土建屋の平岡賢作と息子の健吉は地蔵像を整地された庭の中心に据え、バケツに汲んできた水で泥を洗い流し、丁寧にも布でお身拭いまでした。私は彼等の作業を黙...
雨は止みかけていた。危機は急速に霧消して、黒い雨雲の隙間から陽光が射すようになってきた。
「木原さん。無事ですか。大丈夫ですか。」
何度も家主が外から声を掛けてきたが、私は時間を置いて返事した。家主は戸をこじ開けようとしたが、女の力では動かなかった。土石流の衝撃で柱に歪みが生じたのであろう。私は...
悪酔いした時に見る夢は恐ろしいものであった。
私は夢の中で戦場にいた。眠っている顔の周辺を弾丸がピューン、ピューンと音たてて飛んで行く様子がわかった。あのレマルクの西部戦線異状なしで見た光景であった。映画を見ているようで、空想しているようで、どうして自分が、こんな危険な場所に寝ているのか不思議で...
店に客はいなかった。
「また、お早いおでましですな。今日の仕込みはこれからですから。」
店主は、こう言って、おでんのガスを点火した。
「やっぱり、なんだね。一人生活というのは寂しいね。」
「なにを今さら、改まって言っているのですか。あなたは物書き屋さんでしょう。何ですね。寂しいなんて言っていたら...