ジャケツを持っていくか? と、中佐はうしろを振りかえった。
いや、営倉ではジャケツを取りあげてしまい、防寒服だけしか認めないのだ。
じゃ、このままでいこう。
中佐はヴォルコヴォイが忘れてしまうことを期待して(とんでもない、ヴォルコヴォイはだれに対しても決して忘れたりはしない)、なん...
愛と平和を
ジャケツを持っていくか? と、中佐はうしろを振りかえった。
いや、営倉ではジャケツを取りあげてしまい、防寒服だけしか認めないのだ。
じゃ、このままでいこう。
中佐はヴォルコヴォイが忘れてしまうことを期待して(とんでもない、ヴォルコヴォイはだれに対しても決して忘れたりはしない)、なん...
杉木立の中に、二人の男女が半分雪に埋れて倒れていた。
雪は二人の男女の顔の高さとすれすれに降り積っており、四辺は少し蒼味を帯んだひどく静かな世界だった。
鮎太はやっぱりお姉さんだったと思った。
男の方の顔は半分雪面に俯伏しているので誰か判らなかったが、鮎太はそれを確かめなくても、そ...
「あなたは立派な若者よ」と玄関先でミセス・ヒュームは言った。
「ミスター・トマスにあなたがどれだけ優しくしてあげたか、私は絶対忘れませんよ。あんなに優しくしてもらう権利なんかないことも多かったのに」
「誰だって優しくしてもらう権利はありますよ」と僕は言った。
「誰であろうと」
...
小さな屋根裏部屋の窓を濡らして月光が差し込んでいた。
——兄さん。
いつかあなたの展覧会を開こう。
大きな美術館で、世界中からあなたの絵を見るために、たくさんの人が押し寄せるはずだ。
あなたの絵は、海を渡って、遠くまで旅をする。
きっと日本までも。
そうだ。
...
あらゆる人間にとって唯一の価値基準はお金でした。
彼女たちは母親になっても尊敬されなかった。
女たちが母親の役をすっかり投げ出そうとしていたのも当然です。
でも今のような状態なら、女性たちは保護され、生物学的な役目も無事に果たすことができる。
完全な援助と激励の下にね。
...