窓を開ける。
八階です。
私たちの目の前にモスクワの街が広がっている。
空に花火のブーケがいきおいよく舞い上がる。
「すばらしいわ!」
「きみにモスクワを見せてあげるって約束しただろ。そして、祝日には一生きみに花を贈るって約束もしたよ」
ふりむくと、彼は枕のしたか...
愛と平和を
窓を開ける。
八階です。
私たちの目の前にモスクワの街が広がっている。
空に花火のブーケがいきおいよく舞い上がる。
「すばらしいわ!」
「きみにモスクワを見せてあげるって約束しただろ。そして、祝日には一生きみに花を贈るって約束もしたよ」
ふりむくと、彼は枕のしたか...
お母さんなんだ。
一瞬、頭の中が真っ白になる。
亜夜の動揺をよそに、その存在は明るく笑っていることに気付いた。
やれやれ、今頃気付いたの。
やあねえ、亜夜ちゃんたら。
そんな声が聞こえたような気がした——いや、心に浮かんだというほうが近い。
亜夜は自分にあきれた。...
小さな王子さまは、ちょっぴりさびしい気分になりながら、はえてきたばかりのバオバブの芽も抜いた。
ここへはもう、二度と戻ってくるつもりはなかった。
でもこの朝は、こうしたいつもの仕事が、いやに心にしみたのだ。
そうして、花に最後の水をやり、ガラスのおおいをかけてやろうとしたときには、...
今夜、十本、一気に注射し、そうして大川に飛び込もうと、ひそかに覚悟を極めたその日の午後、ヒラメが、悪魔の勘で嗅ぎつけたみたいに、堀木を連れてあらわれました。
「お前は、喀血したんだってな」
堀木は、自分の前にあぐらをかいてそう言い、いままで見た事も無いくらいに優しく微笑みました。
...
「もう愛情はあるか?」
そう言ったのは彼だが、口から出たとたん、自分で驚く。
「この子に? いいえ。どうして愛せる? でも、愛するようになるわ。愛情は育つものよ。その点は、母なる自然を信じていい。きっと良い母親になってみせるわ、デヴィッド。良き母、善き人に。あなたも善き人を目指すべきね」...