霧の向こうから、重く湿った潮の香りが漂ってくる。
辿り着いたのは、地図にも載っていない、静かに錆びついた埠頭だ。波音は、都会の喧騒が嘘であったかのように穏やかで、ただ寄せては返すリズムを刻んでいる。ここには、誰かに急かされるような予定も、守らなければならない形式もない。潮風に吹かれながら、冷えた手足...
霧の向こうから、重く湿った潮の香りが漂ってくる。
辿り着いたのは、地図にも載っていない、静かに錆びついた埠頭だ。波音は、都会の喧騒が嘘であったかのように穏やかで、ただ寄せては返すリズムを刻んでいる。ここには、誰かに急かされるような予定も、守らなければならない形式もない。潮風に吹かれながら、冷えた手足...
紫煙の匂いと、線香の煙。
どちらも「終わり」の合図だ。あんたは数珠を弄びながら、
「空」だの「縁」だのと御託を並べる。
だが、引き金にかかった指に、
そんな高尚な理屈は通用しない。生きてるか、死んでるか。
この街の掟は、それだけだ。地獄が満員なら、俺が席を空けてやる。
極楽への片道切符は、あいにく持...
煙の向こう側で、奴は数珠を弄んでいる。
救いなんて言葉、この街の雨には溶けやしない。「執着を捨てろ」だと?
笑わせるな。
この指にこびりついた紫煙の匂いも、
昨日の夜に飲んだ安いバーボンの苦味も、
捨てちまえば俺の輪郭は消えてなくなる。奴の説く「無」ってやつは、
弾丸が心臓を撃ち抜いた瞬間の静寂より...
磨き抜かれた靴音を響かせ、したり顔で「人生抜かれた靴音を響かせ、したり顔で「人生論」を説く。
その完璧なネクタイを、俺の指先が冷たく弾いた。「いいか、あんたの言う『光』ってやつは、
俺にとってはただの眩しすぎるスポットライトだ。
役者はごめんだ。俺は観客のいない暗闇が気に入ってる」言葉の弾丸を、その...
乾いたアスファルトを蹴り、俺は行く。背中に投げつけられた「正しい生き方」なんて、
どぶ川に捨てた吸い殻と一緒に流してやった。
説教臭い人生訓を吐く野郎の面(つら)は、
いつだって磨きすぎた鏡みたいに退屈だ。「明日のために」
「誠実であれ」
「絆を大切に」安い酒の酔いも醒めないような言葉を、
俺の耳に...