自分を醜いと信じているこの少女は、咄嗟の間に、いつも抑えつけていたいちばん心の底からの質問を、それもこの若者にむかってしか決してしなかったであろう質問を、思いがけず口走った。
「新治さん、あたし、そんなに醜い?」
「え?」
若者は測りかねた面持でききかえした。
「あたしの顔、...
愛と平和を
自分を醜いと信じているこの少女は、咄嗟の間に、いつも抑えつけていたいちばん心の底からの質問を、それもこの若者にむかってしか決してしなかったであろう質問を、思いがけず口走った。
「新治さん、あたし、そんなに醜い?」
「え?」
若者は測りかねた面持でききかえした。
「あたしの顔、...
だれか話し相手がいるというのはどんなに楽しいことかが、はじめてわかった。
自分自身や海に向っておしゃべりするよりはずっといい。
「お前がいなくて寂しかったよ」と老人はいった、「なにをとったかね?」
「はじめの日に一匹、それから二日目に一匹と三日目に二匹とった」
「大出来だ」
...
センセイ、これ、夢ですか。
わたしは聞いた。
夢でしょうかねえ。
そうかもしれませんねえ。
センセイは愉快そうに答えた。
夢なら、いつ覚めるんでしょう。
さあねえ。
わかりませんねえ。
覚めないでほしいな。
でも夢ならいつか覚めましょう。
...
「おやすみなさい!」
少女は足を速めたが、なにか思いだしたことでもあるのか、引き返してくると、驚嘆と好奇心いっぱいの目でモンターグを見つめた。
「あなた幸福?」
「なんだって?」と叫ぶ。
だが彼女は行ってしまった——月光のなかを走ってゆく。
ー 『華氏4...
野々村はもう泣かなかった。
「僕は妹が可哀そうで仕方がなかった。しかし死んでしまえば人間は実に楽なものだと僕は思って、心をなぐさめている。妹は本当に成仏したのだと思っている。いくら可哀そうに思っても、妹には通じないが、実に可哀そうなのは生き残った人間で、死んだものは、もうあらゆることから解放さ...