自作小説倶楽部12月投稿
- カテゴリ: 自作小説
- 2018/12/31 22:49:13
『彼女の微笑みと鴉』
年の暮れ、駅前には行き交う人々が途切れることは無く、寒波にもかかわらず活気で気温が上昇しているようにすら感じられた。地上を歩く人々はそれぞれの道を急ぎ、ひとつのビルの屋上につながる扉が開いたことに気付く者はいなかった。
「寒ぃな」
先頭の男が扉を開けると背後にいた男は彼を押し...
『彼女の微笑みと鴉』
年の暮れ、駅前には行き交う人々が途切れることは無く、寒波にもかかわらず活気で気温が上昇しているようにすら感じられた。地上を歩く人々はそれぞれの道を急ぎ、ひとつのビルの屋上につながる扉が開いたことに気付く者はいなかった。
「寒ぃな」
先頭の男が扉を開けると背後にいた男は彼を押し...
『幻の娘』
「瞳子はどうしただろう」
最初の恐慌が去ると秋子の頭はそのことで一杯になった。
自分の身に恐ろしい事件が降りかかったとはいえ、娘のことを忘れるなんて何という駄目な母親だろう。自己嫌悪で気分が悪くなった。しばらく狭くて暗いクローゼットの中で身を丸めていたが、こんなことを...
『セイギの味方』
「わたしはアイドルになりたかったわ」
「へえ、意外。白木さんは大人しそうなのに」
「歌って踊りたかったのじゃないわ。フリルの付いたドレスを着てみたかった。そう言うスタイルのアイドルがいたのよ。童話のお姫様みたいに可愛い彼女がうらやましかった」
「格好から入るのかな。あこがれっ...
「ある夫人の肖像」 これが『Y夫人の肖像』です。私の若い頃の作品です。まだ20代の売り出し中の画家でした。避暑地で金持ちの肖像を描いて日銭を稼いでいました。あの頃は写真など無粋で絵画に家族の姿を残すことが金持ちのステータスのようになっていました。わずかな金を払って芸術家のパトロン気取りです。金を手っ...
「夜空を歩く」
その人は母の従妹に当たる女性だったそうです。
最初にその人を見たのは私が何歳の頃かは覚えていません。毎年、お盆に母の祖父母の家を訪れると、ああ、またいるな。と彼女の姿を目に留めたものです。
彼女は蔵の脇の日陰に立っていました。昔...
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