摩天楼の頂を飲み込むような、重く垂れ込めた雲。
濡れたアスファルトに反射するネオンの光は、都市の輪郭を曖昧に書き換えていく。
静寂が街を包み込み、偽りの平穏が始まる時間だ。コートの襟を立て、路地裏の湿った空気に身を沈める。
立ち上る煙は夜気に溶け、人影もその濃密な闇に飲み込まれていく。
追う者も、追...
摩天楼の頂を飲み込むような、重く垂れ込めた雲。
濡れたアスファルトに反射するネオンの光は、都市の輪郭を曖昧に書き換えていく。
静寂が街を包み込み、偽りの平穏が始まる時間だ。コートの襟を立て、路地裏の湿った空気に身を沈める。
立ち上る煙は夜気に溶け、人影もその濃密な闇に飲み込まれていく。
追う者も、追...
鉄の蛇が地下で吐き出した
安物の煙草と 湿った沈黙
アベス駅のエレベーターを捨て
俺は螺旋の階段に 重い足をかける一段ごとに 過去が踵を削り
二段ごとに 良心が剥がれ落ちる
モンマルトルの丘は 高く
神と罪人が 同じ高さで息をつく場所広場には 似顔絵売りの嘘と
冷えたカフェ・クレーム
テルトル広場の...
Abbesses(アベス)の螺旋は 深い
吐き出された煙草の煙が 鉄の通路に絡みつく
地下36メートル、重たい空気を吸って
エレベーターが地表へ、偽りの快楽へ浮上する地上に出れば ノスタルジーの仮面を被った街角
モンマルトルの坂は 湿った石畳でできている
赤い風車の灯るエリアは 虚飾のネオンが揺れる...
季節外れの狂い咲きだと
誰かが肩をすくめて通り過ぎる。
だが、凍てつく風に耐えるその花弁は
返り血よりも白く、静かだ。温もりを捨てた枝の先
掌にこぼれ落ちたのは
雪か、それとも散り際の火花か。報われることのない忠義のように
枯れ色の中に、一点の意地を置く。遠ざかるほどに、鮮明になる。
あの日、守れな...
氷の溶けきったグラスの底に
沈んだ昨日の残り香を
指先でなぞる。都会(まち)は
誰かの涙を飲み干しては
ネオンの飛沫を撒き散らす。背中の傷が疼くのは
過ぎ去った季節のせいではない。
ただ、遠ざかる背中を
見送る術を知らなかっただけだ。悲しみは
雨に洗われたアスファルトのように
鈍く、静かに
朝の光を...