気楽に過ごそうと思った。抱え込んでいたことを少しだけ脇に置いて、風の吹くままに歩いてみる。空は穏やかで、街の音もどこかやさしく聞こえた。
いつもなら気にも留めない景色が、その日は少し違って見えた。木々の揺れる音や、通り過ぎる人の笑い声が心に染みてくる。そうして肩の力が抜けていくうちに、胸の奥に小さな...
気楽に過ごそうと思った。抱え込んでいたことを少しだけ脇に置いて、風の吹くままに歩いてみる。空は穏やかで、街の音もどこかやさしく聞こえた。
いつもなら気にも留めない景色が、その日は少し違って見えた。木々の揺れる音や、通り過ぎる人の笑い声が心に染みてくる。そうして肩の力が抜けていくうちに、胸の奥に小さな...
カッコつける私が背伸びをする。
その人の気配に、胸の奥がざわつく。
声のトーンが勝手に変わる。
普段の私が知らない私が前に出る。
落ち着け、とカッコつける私が言う。
無理だよ、と素の私は返す。
手汗だけが正直だ。
歩き方がぎこちなくなる。
自然に、自然に、と唱えるほど...
そして蛇口を閉める。
部屋はまた静かになる。
冷蔵庫の音。
遠くを走る終電。
誰にも気づかれない程度の夜。
洗面台の縁に手をついていると、
ふと気づく。
忘れたかったわけではなく、
思い出したかったわけでもないのだと。
古い本に挟まった栞のように、
ただそこに...
夜更け。
洗面台の灯りだけが、
小さな港みたいに部屋を浮かべている。
透明な液体を口に含む。
規定の三十秒。
そのあいだだけ、
時計は律儀に進むのに、
心の中では何年かが勝手に逆走する。
誰のことだったか、
もう名前も曖昧なのに。
春の匂いとか、
改札の...
でかい入れ物のアイスを買ってきた。
冷凍庫を開けるたび、
そこにいる。
妙な安心感。
人生にはいろいろある。
税金とか。
人間関係とか。
見なかったことにしたメールとか。
しかし冷凍庫には、
でかいアイスがある。
スプーンを入れる。
一口。
もう一...