Nicotto Town



自作小説倶楽部2月投稿

『合わせ鏡』
貴男に、話しておかなくてはならないことがあるの。と彼女は突然言った。彼女の用意した夕食に満足し、彼女の美しい容姿と動きに魅了されてテーブルを離れがたくなっていた時だった。僕はテーブルに肘を立て、美しい曲線を描くあごの下で彼女の両手が合わさり、指が交差するのに見とれていたから、一瞬戸惑っ...

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自作小説倶楽部1月投稿

『問題作』
「おい、あんたがビショップだな」棘のある声で私の作業は中断された。手を止めるとゴーグルと耐火服ごしでも炉の炎が眩しく、一層熱く感じられた。後始末とはいえ最も地味で苦手な過程だ。さっさと闖入者を追いだして仕事を終わらせるべく振り返る。神経質そうな痩せた男が立っていた。炎を反射して光る眼鏡の...

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自作小説倶楽部12月投稿

『まぼろし怪盗』
ガタン、ガタン…走る列車の定期的な振動に合わせて中吊り広告が揺れるのを私は見つめていた。夢見るような少女がそこに描かれている。「世紀の微笑」という文字が彼女の顔を隠そうとするように唇の下にあった。美術館で大きな展覧会があるのだ。その美術館には何度も足を運んだことがある...

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自作小説倶楽部11月投稿

『犯罪未然』
いっそ事故に遭って約束を反故にできないかと想像したが、そんなことも無く僕は待ち合わせの喫茶店に到着してしまった。もう引き返すことは出来ない。耳の奥にこびりついた別れを告げた時の彼女の「どうして」と言う声から逃れるように足を踏み出した。がらんとした店内の壁のしみのように小薮が片隅の席に座...

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自作小説倶楽部10月投稿

『路地裏の出来事』手はず通り取引を終え、酒場を出て歩きだしてすぐ路地からぬっと、腕が伸びてきた。俺の胸元に銀色に光るものが押し当てられる。 おいおい、まじかよ。 俺の仕事には予想外のトラブルは付き物だが、今回は本当に驚いた。 「静かにね。騒ぐと怪我では済まないよ」 夜の始まりのような青に墨を...

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