限りなく続く音(5)
- カテゴリ: 自作小説
- 2026/05/31 01:43:13
翌朝、寝坊したのは草太の方だった。顔を洗って居間へ行くと、母が台所から「草太君を起こしてきて」と言った。私は廊下を引き返して家の端から端までぐるりと廻った。障子のガラスの向こうに、草太が布団から片脚を斜めに出して、大の字で寝ているのが見えた。私は障子を開けずに、腰を落としてガラス越しに「草太、草太...
翌朝、寝坊したのは草太の方だった。顔を洗って居間へ行くと、母が台所から「草太君を起こしてきて」と言った。私は廊下を引き返して家の端から端までぐるりと廻った。障子のガラスの向こうに、草太が布団から片脚を斜めに出して、大の字で寝ているのが見えた。私は障子を開けずに、腰を落としてガラス越しに「草太、草太...
泳ぎ疲れてぐっすり眠った昼寝の後、夕飯までの時間に宿題をしていると草太があれこれと話しかけて邪魔をする。「話しかけないでよ」と言うと、草太は部屋にあった大きなパンダのぬいぐるみを相手にプロレスを始めた。「うるさいなあ、もう、あっち行ってよ」「あっちってどっち」「自分の部屋」「やだよ、何にもないんだ...
くねくね曲がった細道を、草太と二人、浜へ向かって降りてゆく。目覚めて見ていたタチアオイの絵の中をくぐって、波音の源を目指す。民宿や海の家の看板の並ぶ向こうに水平線が見えると、草太は「早く行こう」と私の手を握って駆け出した。「海が近くていいよなあ。毎日泳げるじゃん」 砂浜にビニールシートを広げ、二人...
石垣の連なる細い坂道を、水着の子供が駆け降りてゆく。八枚並べた正方形のタイルに描かれた風景画の中で、手前のタチアオイの隙間を時折誰かが横切ってゆく。朝から強い日差しは窓の外を白く霞ませて、わずかにこぼれた光の破片がこの部屋の床に落ちて息絶えていった。 光の中で何かがきらきらと音もなく舞っている。あ...