「甘い毒、持ってなあい?」
甘えているような声色で。小夜さんはオレに聞いた。そのほほ笑みはいつものように心を見透かせない、鉄壁。
「持ってませんよ。そんな物騒なモノ」
愛しい人からの質問だ。オレは正直に答える。第一、毒を持つことなんてないのに、それに「甘い」という条件が加われば答えはいつだって...
日日是悪日
「甘い毒、持ってなあい?」
甘えているような声色で。小夜さんはオレに聞いた。そのほほ笑みはいつものように心を見透かせない、鉄壁。
「持ってませんよ。そんな物騒なモノ」
愛しい人からの質問だ。オレは正直に答える。第一、毒を持つことなんてないのに、それに「甘い」という条件が加われば答えはいつだって...
狭くはない室内に、白いソファが一つ。和やかな昼の陽が良く当たる壁際に設置されている。それに腰掛けるのは、美しい男女。眼の前のローテーブルには小さな角砂糖を幾つも入れた二人が好む甘いココアが湯気を立て赤と青それぞれのマグカップに並々と注がれていた。日差しの中肩を寄せ合い二人は微睡む。その風景は、一種絵...
ことりを飼い始めた。 いや、正確には飼い馴らし始めた、だろうか。 いずれは飼い殺すつもりでいる。
美しいことりは鳥かごの隅に寄り、私に怯えた目を向けてくる。 無理もない。 以前大事に扱われていた、広く豪華な鳥かごから半ば強制的にここへ連れ去ってきたようなものなのだから。 小さなからだを震わしながら恐...
例え十五年しか生きていなくとも、「なつかしい」という感受性は私にだってある。 そうしてそれは、短い間しか生きていないせいか一ヶ月もご無沙汰すればなんだって懐かしいのだ。 そう、今日のように。
『なつかしい』
真新しい制服に身を包み、泥一つない革靴で傷一つない自転車をゆっくりと漕ぐ。 こうすれば、...
「私は椿の花が怖くてしょうがないのだよ」
「おやおや、どうしてですか」
ほんの少しの雪が積もった赤い番傘を清太郎は片手に、誰に言うでもなく呟く。彼の妻である紫はしとやかに答えながら、夫の見つめる先に焦点を合わせた。どこまでも真白な雪の中、椿の木が新緑の葉と真紅の花を惜しみなく、枝に纏わせ寒空の下晒...