美佐は、雪枝の指先から病状の進行について予感めいたものを感じた。スーと自分の視界から雪枝が消えてしまうのではないか。雪枝は謎を持った女かも知れないと美佐は感じた。 この時であった。病室のドアをノックして二人の男性が花を持って入ってきた。「あら。水沢さん。お見舞いに来てくれたのですか。」...
美佐は、雪枝の指先から病状の進行について予感めいたものを感じた。スーと自分の視界から雪枝が消えてしまうのではないか。雪枝は謎を持った女かも知れないと美佐は感じた。 この時であった。病室のドアをノックして二人の男性が花を持って入ってきた。「あら。水沢さん。お見舞いに来てくれたのですか。」...
信太盛太郎の死が自分の遠い過去の出来事に関連しているのではないか。恐怖に似た不安を感じた瞬間、雪枝の全身が震えた。全身をずぶ濡れにした信太の姿を一瞬、見た思いがした。亡霊を払うかのように雪枝は布団を跳ねのけた。すると目の前に美佐の顔があった。「ママ。大丈夫?いきなり泣き出すものだから、びっくりし...
植村雪枝の病室のドアを開けた時、北川美佐は決意をした。それは信太盛太郎の事故死を雪枝に告げることであった。彼のことを何時までも黙っていられなかった。クラブ霧笛の古くからの顧客であった信太盛太郎が港に死人となって浮かんでいたという不名誉なことを雪枝が知ったならば、症状の良くない病人にとって大きな精神...
「先輩。信太盛太郎のことは調べましたか。」 二宮が、いきなり核心に迫る質問を菅原にした。この逆手に取ったような二宮の言葉に菅原は面食らった。「いやー。それが思うように進んでいないのだ。まあ、これからだよ。」 この時、二宮に叱咤されたような錯覚を菅原は感じた。「警察の方では被害者である信太の調査はして...
注文を聞きに来た若い男性に声をかけてから、二宮は菅原の心中を見透かすように先手を打ってきた。「先輩が関心を持っておられます、例の運河からの転落事故の件ですが、警察としての仕事は終了しましたよ。」「ええ。終了しましたって、まだ、何も解決していないじゃないか。」 菅原は唖然としたが、二宮は涼しい顔で運...
|