仮想劇場『セミと僕とお盆休み』
- カテゴリ: 自作小説
- 2025/08/10 17:01:46
ようやくもらえた長期休暇を利用して郷里に戻ってきた。といってもすでにここには実家はなく、ただただ懐かしい田舎風景がストンと転がっているだけで身を拠せるべき場所もない。 恰好ばかりの墓参りを済ませ小学校の裏道を千鳥足に交わし、子供のころよく遊んでいたお宮さんの境内に出る。 特に信心しているわけでも...
ようやくもらえた長期休暇を利用して郷里に戻ってきた。といってもすでにここには実家はなく、ただただ懐かしい田舎風景がストンと転がっているだけで身を拠せるべき場所もない。 恰好ばかりの墓参りを済ませ小学校の裏道を千鳥足に交わし、子供のころよく遊んでいたお宮さんの境内に出る。 特に信心しているわけでも...
夏休みといえばお祭りとプール。かき氷に焼きもろこし。 お盆の準備に右往左往する母。 給水塔の濃い影に隠れた彼女のお下げ髪に水滴ひとつ。 そしてやはり軒下で扇風機と肩並べて頬ばる真っ赤なスイカの美味い事。 首振りに合わせて上半身をかしげながらの種飛ばし。 今年の僕は一味違う。去年の記録をあっさりと...
まだ8月でもないのに外は35度をゆうに超えて猛り狂った猛暑で、お隣さんの室外機も悲鳴を上げそうな勢いでワシワシと回り散らかしている。うちはというと寒がりな同居人のおかげかまだまだ電気代を気にする必要はないようで、28度設定のままどうにかこうにかやり過ごせている。 いま、同居人といったが正確には彼...
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「いやぁ、去年はお互いに大変だったねぇ」ってキミが言って、「そうだそうだ」と僕が答える。「今年こそは、いいとこ見せようぜ!」とキミが拳を握りしめ、これまた同...
「もうそろそろ良い返事を聞かせてくれてもいいだろう?」 悪友がそう言って一冊のクロッキー帖を僕に差し出す。僕は返事を渋りながらも黙ってその一冊を受け取った。
あれは今年の4月のことだったか。しばらくは納得もないままボー然と時を潰しすごしていた。ようやく重い腰をあげたのは6月に入ったころだったか。...