自作小説倶楽部6月投稿
- カテゴリ: 自作小説
- 2018/06/30 21:21:05
『姉の恋』
「彼と別れるわ」
姉は予想通りの言葉を吐いた。意味もなく細い指でストローの曲がり角をつまんでアイスコーヒーの氷を一回転させる。
これで何度目のことだろう。僕は内心ため息をついた。
大きな瞳がふたつ、卵型の顔の中できらりと輝く。少しカールした栗色の髪に染み一つない肌、服装はゆっ...
『姉の恋』
「彼と別れるわ」
姉は予想通りの言葉を吐いた。意味もなく細い指でストローの曲がり角をつまんでアイスコーヒーの氷を一回転させる。
これで何度目のことだろう。僕は内心ため息をついた。
大きな瞳がふたつ、卵型の顔の中できらりと輝く。少しカールした栗色の髪に染み一つない肌、服装はゆっ...
『とあるおとぎ話』
あたしは幼馴染の『のえる』が嫌いだった。
読めない漢字で『のえる』なんて読ませる名前を付けるファンシーな脳みそのママを持った彼女はママの理想通りの大きなリボンにフリルのついたワンピースを着るような女の子に育った。
そして「いつか王子様がのえるを迎えに来...
『菜の花畑の殺意』
幼いころから病弱でしてね。病気の総合デパートなんて有り難くないあだ名を頂戴しましたよ。たまたまそういう体質に生まれてしまったんですよ。
幸い両親は食うに困らない財産を残してくれました。どうせ長い人生じゃない。私の遠縁には没落してその日暮らしという人間もいます。だから私は幸運な...
『ある夜の魔法』
こんばんわ。まあ、あなた泥棒? まあ、怖いわ。
うふふふふ。そうね。怖がっている態度じゃないわよね。
ごめんなさい。
この歳になると怖いものなんてなくなるのよ。
大丈夫。この家にはわたし以外誰もいないわ。
そんなことより、見てちょうだい。美しい絵でしょう? 水の絵よ。
じいっと見て...
『青いため息/厄介な依頼人』
「わたくしは殺しておりません」
俺は困惑していた。朝早くに事務所を訪れた女は上品でゆっくりした口調は崩さないが全身から怒りをみなぎらせている。テーブルの上に放り出されたままだった古新聞には「青い貴婦人」または「呪いの青い魂」と呼ばれるブルーダイヤモンドの競売...