Nicotto Town


ごま塩ニシン


おすがり地蔵尊秘話(25)

 雨は止みかけていた。危機は急速に霧消して、黒い雨雲の隙間から陽光が射すようになってきた。
「木原さん。無事ですか。大丈夫ですか。」
 何度も家主が外から声を掛けてきたが、私は時間を置いて返事した。家主は戸をこじ開けようとしたが、女の力では動かなかった。土石流の衝撃で柱に歪みが生じたのであろう。私は...

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おすがり地蔵尊秘話(24)

 悪酔いした時に見る夢は恐ろしいものであった。
 私は夢の中で戦場にいた。眠っている顔の周辺を弾丸がピューン、ピューンと音たてて飛んで行く様子がわかった。あのレマルクの西部戦線異状なしで見た光景であった。映画を見ているようで、空想しているようで、どうして自分が、こんな危険な場所に寝ているのか不思議で...

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おすがり地蔵尊秘話(23)

 店に客はいなかった。
「また、お早いおでましですな。今日の仕込みはこれからですから。」
 店主は、こう言って、おでんのガスを点火した。
「やっぱり、なんだね。一人生活というのは寂しいね。」
「なにを今さら、改まって言っているのですか。あなたは物書き屋さんでしょう。何ですね。寂しいなんて言っていたら...

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おすがり地蔵尊秘話(22)

 藤森弁護士が帰った後、私は、彼から聞いた話を秀子や義弟の妻の君子に内緒にしておこうと決めた。これ以上、波風を立てたくなかった。覆水盆に返らずで今さら実は、こうなってしまったと話して何になるだろうか、一種の絶望感であった。出来るだけ虚無的な思考はしたくなかったが、無念と言えば、それまでだ。ある意味、...

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おすがり地蔵尊秘話(21)

 私がテーブルにカップを運んでいくと、藤森弁護士は恐縮しながら言った。「実は、数日前に闇金のアジトに警察が踏み込んだ報道があったのですが・・。」 こう言って、藤森弁護士は私の顔を伺うように見た。「ああ。新聞を取っていないから、詳しいことは分からないが、ラジオのニュースで概略は知っている。それが、どう...

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