Nicotto Town


ごま塩ニシン


夜霧の巷(2)

 昨夜、店の掃除をしてから美佐はタクシーでマンションに帰った。午前三時頃であった。店のオーナーは植村雪枝といったが、美佐よりも15歳年上であった。2週間前であった。開店準備をしていた雪枝がお腹のあたりに激痛を訴えた。それ以来、ママは入院した状態が続いている。オーナーが倒れたこともあって、36歳になっ...

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夜霧の巷(1)よぎりのちまた(第一章)

 港街は霧に覆われていた。高台の新栄街区から夜の港街を見下ろすと灯台の灯が三色の輪に見えた。地下鉄の最終列車の10分前になって、客は席を立った。北川美佐は預かっていた客の手提げ鞄を持つと、素早くカウンターから出て、ふらつきながらドアに向かってくる初老の男の背中に背広を被せた。「ありがとうよ。今日は悪...

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おすがり地蔵尊秘話(33)

 優子に子供が出来て、孫の顔を見たいのか、妻の秀子は満面の笑みを浮かべて、こう言うのであった。
「あなた、家に帰って来てください。もう、気ままに小説を書くことだけに専念してもらっていいですから、機嫌を直して下さらない。孫ができるというのに夫婦が別居しているのも、具合が悪いでしょう。」
 私は勝手な言...

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おすがり地蔵尊秘話(32)

 1カ月ほどが、あっという間に経過した。托鉢僧の運善は地蔵尊への参拝者が途切れることがなかったので、世話をしている内に、当地に居つくことになってしまった。というのは、私は念仏を唱えられるわけではないから、運善に去られてしまうとパニックになってしまう。家主の峰平かよ子も同意見であった。玄峰寺の宝田住職...

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おすがり地蔵尊秘話(31)

「地蔵さんにお供えしようと思っても、地べたに並べるのは困ります。お坊さんもおられることですから、どうぞ、お供えの、おさがりやと思って、食べてください。」
 誰かが代表して、こうした趣旨を言ったものだから、みんなが手に持ってきた物や鞄の中から、お菓子屋や缶ジュースなどを一斉に並べたのであった。
 こう...

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