Nicotto Town



仮想劇場『セミと僕と親愛なる人』


 夏も8月後半に入るとどこかそっけなく思える。例えるなら口やかましかった太陽の質がちょっとだけ変わったような感じだ。同時ににセミたちの自己主張も終わりに近づく。 そのことを「少し物悲しいね」と10畳間の女主さんは漏らした。僕は何も答えずただただ押入れの天井を見上げている。
 故郷から街に戻りもう3...

>> 続きを読む


仮想劇場『セミと僕とミルクセーキ』



 二人が場所を移したのは日暮れ前で、数年前に田舎移住希望で越してきたという中年夫婦が営む旧中学校前の小さな喫茶店だった。店内は割とありきたりな構えで面白みは無かったが、最初に出されたメニュー表に描かれていた女の子の素朴なイラストがよかった。
 僕が頼んだソーダフロートをフジコがガメつく奪い取る。...

>> 続きを読む


仮想劇場『セミと僕とポータブルラジオ』



「ちょっと!ねぇ、何してるのよ!」 驚いて止める彼女の言葉を振り切りながら僕は境内の鉄格子に足をかけ、天井の大梁の裏側に手を伸ばす。そこから手探りで横移動していると新聞紙にくるまれたままの物体が階段に落ちた。 中を確認しなくてもそれが何かわかる。 シゲちゃんのラジオ、ポータブルラジオだ -。

...

>> 続きを読む


仮想劇場『セミと僕と夕立』

 大きな雷鳴がお宮の楠木を揺らし、ひと際強く吹いた雨風は多くの葉をざわつかせる。ほどなくして夕立になった。
「ほら、やっぱり降ってきたわ」 勝ち誇った顔でフジコが首の骨をコキコキと鳴らして見せる。 どうせすぐ止むだろうと僕は答えて境内の軒の垂木の数を数えてごまかした。 淡々と昔話をするフジ...

>> 続きを読む


仮想劇場『セミと僕と感傷風景』


「そうかぁ、やっぱりみんな出て行っちゃったんだなぁ。まぁ僕も他人のことは言えないけどね」 フジコ以外の同級生はみな街に出たそうで、地元にはもう誰も残っていないらしい。今日1日ぐるっと回ってみておおかた察してはいたことだが改めて聞かされるとやっぱりどこか寂しい気持ちにはなった。「あ、でもユウちゃんは...

>> 続きを読む





Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.