I思い出せば いまも涙が頬をつたふ
それは情けないからではなく ぼくの胸のなかに
母の生きた時間が 確かに息づいてゐるからだ
あの激しい風も 焼け野原の歌声も まだ終わつてはゐない幼い母と妹を吹き飛ばした あの恐ろしい風の記憶
そして数日後 灰の街で飢えに震えながらも
気高く「お豆腐をください」とう...
ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。
I思い出せば いまも涙が頬をつたふ
それは情けないからではなく ぼくの胸のなかに
母の生きた時間が 確かに息づいてゐるからだ
あの激しい風も 焼け野原の歌声も まだ終わつてはゐない幼い母と妹を吹き飛ばした あの恐ろしい風の記憶
そして数日後 灰の街で飢えに震えながらも
気高く「お豆腐をください」とう...
Iあの日 すべてを奪ひ去つた爆風のあとで
世界はただ 灰色の沈黙に包まれてゐた
幼い母と妹が 奇跡のように踏みしめた地面は
かつての緑の森も 教会の影も失つてそれから数日が過ぎた あるひかりの午後のこと
硝煙の残る瓦礫のなかに まぼろしのやうに
気高く 美しい親子が佇んでゐた
あまりに過酷な地獄の底...
Iその日も 森の教会は静かに息づいてゐた
母と小さな妹は 木漏れ日のなか
あしたの幸福を ただ無邪気に信じてゐた
けれど まばゆい光がすべてを白く染めたとき風は一瞬にして 牙をむく獣となり
幼い二人のからだを 天空へとささらひ去つた
ちぎれた青い葉と 教会の瓦礫のなかに
生と死のあわひを 二人はただ...
お母さん あなたのやさしい手はもうなくて
五月の庭には ただあなたの好きだった風がふく
あなたが遺(のこ)していった このぼくのからだには
いまも静かに あなたのかなしみが流れているそれは見えない糸のように ぼくの骨にからみつき
ふとした夕暮れに ちいさな痛みを連れてくる
ぼくらは同じひかりに いま...
見知らぬ夏のひかりが ぼくの記憶をたたく
あの日 ぼくがまだ生まれるよりもはるかむかし
ひとつの都市が灼かれ 人々の影が石に融けたとき
ぼくの血のなかに しずかに流れこんだものがあるそれは微かな微かな 追憶の澱(おり)のようでいて
五月のわかばの梢(こずえ)を ふるわせる風のよう
お母さん あなたの...