シトラスの香りをまとって現れた女性。
艶やかな黒髪は胸まで達しており、
スカートではなくパンツのスーツ姿は、何処となく秘書のようで知性を感じさせた。
ひとつしか無い出入口を塞ぐ様に立っていた女は、やや半身になると手招きをしてきた。
少し挑発的な態度なのは、絶対的優位性からだろうか?
事実イニシアティ...
シトラスの香りをまとって現れた女性。
艶やかな黒髪は胸まで達しており、
スカートではなくパンツのスーツ姿は、何処となく秘書のようで知性を感じさせた。
ひとつしか無い出入口を塞ぐ様に立っていた女は、やや半身になると手招きをしてきた。
少し挑発的な態度なのは、絶対的優位性からだろうか?
事実イニシアティ...
ギィーーーー
少し間抜けな音を立てて扉は開いていった。
するとすぐに、独特の匂いが鼻をついた。
アトリエ特有の匂いだ。ただし眼前に広がる光景は異彩を放っていた。
麻布のキャンバス・揮発性精油・乾燥剤・ブロック社の木枠・岩絵の具に和紙の切れ端…。
さらには顔料をそぎ落とされた古めかしい絵...
風はなかった。 海に面した街では珍しく、夜気は生暖かく乾いていた。 街灯の数は、乏しく、月は出てはいない。 そして明かりの漏れる窓は数えるほどしかなかった。 闇に占められた街は、 来る人を拒む威圧感のような 罠へ誘う静けさのような なんともいえない雰囲気を醸し出していた。 足取りは重かった。 不慮の...
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