深い霧に包まれた巨大なダムの堤頂。そこには、湿った夜気と静寂だけが支配する世界がある。コンクリートの巨大な壁は、まるで過去の記憶をすべて遮断するかのように立ちはだかっている。
午前三時。ダムの縁に一人の男が立っている。
視界を奪うほどの濃霧は、まるで銀色の幕。
男が指に挟んだ煙草の火だけが、この灰...
深い霧に包まれた巨大なダムの堤頂。そこには、湿った夜気と静寂だけが支配する世界がある。コンクリートの巨大な壁は、まるで過去の記憶をすべて遮断するかのように立ちはだかっている。
午前三時。ダムの縁に一人の男が立っている。
視界を奪うほどの濃霧は、まるで銀色の幕。
男が指に挟んだ煙草の火だけが、この灰...
街の喧騒が 遠くへ退いていく_
お前が守った この静寂(しじま)の中で
俺は まだ終わらない夜を生きている
武器なんて 端(はな)から持っていなかったな
お前の拳は 誰かを傷つけるためじゃなく
ただ 大切なものを抱えるためにあった
万年筆のインクは 涙よりも黒く
お前の名前を 夜の底に刻み込む
「さ...
カウンターの隅、氷が溶けてカチリと鳴った。
男は、自分のものではない琥珀色のグラスを見つめていた。向かいの席は空だそこには一冊の、手垢で汚れた古い詩集だけが置かれている。
「あいつは、最後までこれを手放さなかった」
マスターが、手慣れた手つきでグラスを拭きながら言った。
男は応えない。ポケット...