あのころのわたしは、文を大人だと思っていた。
けれど、たった十九歳だったのだ。
わたしはただそこにいるだけで巨大な荷物となって文を押しつぶしただろう。
十九歳の大学生が、九歳の女の子をいつまでも手元に置いておけるはずがない。
いつかは必ずばれる。
休日にふたりでだらだら...
愛と平和を
あのころのわたしは、文を大人だと思っていた。
けれど、たった十九歳だったのだ。
わたしはただそこにいるだけで巨大な荷物となって文を押しつぶしただろう。
十九歳の大学生が、九歳の女の子をいつまでも手元に置いておけるはずがない。
いつかは必ずばれる。
休日にふたりでだらだら...
ジャケツを持っていくか? と、中佐はうしろを振りかえった。
いや、営倉ではジャケツを取りあげてしまい、防寒服だけしか認めないのだ。
じゃ、このままでいこう。
中佐はヴォルコヴォイが忘れてしまうことを期待して(とんでもない、ヴォルコヴォイはだれに対しても決して忘れたりはしない)、なん...
「あなたは本当に真面目なんですか」と先生が念を押した。
「私は過去の因果で、人を疑りつけている。だから実はあなたも疑っている。然しどうもあなただけは疑りたくない。あなたは疑るには余りに単純すぎる様だ。私は死ぬ前にたった一人で好いから、他を信用して死にたいと思っている。あなたはそのたった一人にな...
だれか話し相手がいるというのはどんなに楽しいことかが、はじめてわかった。
自分自身や海に向っておしゃべりするよりはずっといい。
「お前がいなくて寂しかったよ」と老人はいった、「なにをとったかね?」
「はじめの日に一匹、それから二日目に一匹と三日目に二匹とった」
「大出来だ」
...
野々村はもう泣かなかった。
「僕は妹が可哀そうで仕方がなかった。しかし死んでしまえば人間は実に楽なものだと僕は思って、心をなぐさめている。妹は本当に成仏したのだと思っている。いくら可哀そうに思っても、妹には通じないが、実に可哀そうなのは生き残った人間で、死んだものは、もうあらゆることから解放さ...