もう こちらでは夕方になると、ひぐらしの声が低く、
まるで水の底に沈むように響いてゐます。
東京の暑さは、まだつづいてゐるでせうか。お別れしてから、ぼくはあの小さな部屋の窓辺にひとりで腰かけて、
きみの白いスカートが、風に小さくはためいてゐた午後のことばかりを
ぼんやりと思い出してゐます。
あのとき...
ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。
もう こちらでは夕方になると、ひぐらしの声が低く、
まるで水の底に沈むように響いてゐます。
東京の暑さは、まだつづいてゐるでせうか。お別れしてから、ぼくはあの小さな部屋の窓辺にひとりで腰かけて、
きみの白いスカートが、風に小さくはためいてゐた午後のことばかりを
ぼんやりと思い出してゐます。
あのとき...
草の葉のさきに ひそやかに宿るものは
夜のあひだに星々が落とした 涙だらうか
あさの光のなかで それは白く光り
触れれば消える はかない夢のやうだきみと歩いた あの見慣れた小径(こみち)にも
いまは冷たい水の粒が ちりばめられ
ぼくたちの足音は いつになく静かに
秋の深い愁(うれ)ひのなかへ 消えて...
ひぐらしの声が 夕闇の底へ沈み
あれほど熾(さか)んだった熱い陽ざしは
いつのまにか 木漏れ日のやはらかさになって
ぼくたちの足もとを そっと濡らす風はもう 遠い海の話をしない
どこか見知らぬ尾根を越えてきたやうに
冷ややかな手ざわりで きみの髪を撫で
過ぎ去った季節の宛名を さがしてゐるまだ夏の名...
青い梢をわたる風のなかに
いつからか かすかな翳(かげ)がまじり
ぼくたちのあどけないお喋りは
不意に途切れて 遠い雲をみつめるあんなに熱かった光の雫(しづく)が
今はもう 草の葉に冷たくしづまり
過ぎ去った夏の日々の記憶を
ひとり静かに 数えはじめているさよならを告げるにはまだ早く
迎えるには あ...
1. 暦の嘘カレンダーは秋だと嘯(うそぶ)く。
だが、アスファルトはまだ燻る銃口のようだ。
午後五時の錆びた風が、
バーの重いドアを押し開ける。
「自立した子供に神は微笑む」
安物のスピーカーから、
ビリーのしゃがれた声が這い出してきた。2. 乾いた果実持てる者はさらに与えられ、
持たざる者は影さえ...