野々村はもう泣かなかった。
「僕は妹が可哀そうで仕方がなかった。しかし死んでしまえば人間は実に楽なものだと僕は思って、心をなぐさめている。妹は本当に成仏したのだと思っている。いくら可哀そうに思っても、妹には通じないが、実に可哀そうなのは生き残った人間で、死んだものは、もうあらゆることから解放さ...
愛と平和を
野々村はもう泣かなかった。
「僕は妹が可哀そうで仕方がなかった。しかし死んでしまえば人間は実に楽なものだと僕は思って、心をなぐさめている。妹は本当に成仏したのだと思っている。いくら可哀そうに思っても、妹には通じないが、実に可哀そうなのは生き残った人間で、死んだものは、もうあらゆることから解放さ...
窓を開ける。
八階です。
私たちの目の前にモスクワの街が広がっている。
空に花火のブーケがいきおいよく舞い上がる。
「すばらしいわ!」
「きみにモスクワを見せてあげるって約束しただろ。そして、祝日には一生きみに花を贈るって約束もしたよ」
ふりむくと、彼は枕のしたか...
お母さんなんだ。
一瞬、頭の中が真っ白になる。
亜夜の動揺をよそに、その存在は明るく笑っていることに気付いた。
やれやれ、今頃気付いたの。
やあねえ、亜夜ちゃんたら。
そんな声が聞こえたような気がした——いや、心に浮かんだというほうが近い。
亜夜は自分にあきれた。...
小さな王子さまは、ちょっぴりさびしい気分になりながら、はえてきたばかりのバオバブの芽も抜いた。
ここへはもう、二度と戻ってくるつもりはなかった。
でもこの朝は、こうしたいつもの仕事が、いやに心にしみたのだ。
そうして、花に最後の水をやり、ガラスのおおいをかけてやろうとしたときには、...