おすがり地蔵尊秘話(18)
- カテゴリ: 自作小説
- 2018/02/23 14:04:59
古川静次はドイツ製の車に乗って来た。若い頃からの静次の愛車だが、私は気に入らなかった。儲けているのならいいが、経営の苦しい時に、こうした個人趣味は何か空疎に思えてならない。「口うるさいようだが、車以外の乗り物にして身を引き締めた方がいいな。」 私は正直に言った。静次が渋い顔をした。が、素直にこう言...
古川静次はドイツ製の車に乗って来た。若い頃からの静次の愛車だが、私は気に入らなかった。儲けているのならいいが、経営の苦しい時に、こうした個人趣味は何か空疎に思えてならない。「口うるさいようだが、車以外の乗り物にして身を引き締めた方がいいな。」 私は正直に言った。静次が渋い顔をした。が、素直にこう言...
妻の弱気な態度に接すると、何か形勢が逆転してきたような気持になった。あれだけ、私を毒殺つもりなのかと、大きな声で反発していた秀子の様子が変わってきたことが愉快であった。そもそも、俺は気の弱いところがいけないのだと思った。どーんと大きく構えて、自分の我欲を貫く方が、人生を上手に渡れるのではないか。あ...
離れを借りるというより、私は大学時代の下宿生活を思い出していた。正直に言えば、離婚を前提にした別居という考えではなかった。甘い考えではあったが、あまり先のことまで考えても、仕方がないというか、どこかオポチュニスト的な性格から抜けきっていなかった。いつも出たとこ勝負で生活してきた。ただし、寝る布団は...
裁量と忖度。
これほどメダルの裏と表を現わす言葉はない。どちらも根底の意味は同じである。辞書によると「裁量」は、「自分の考えで問題を処理すること。」(スーパー大辞林)と解釈がついている。「忖度」は、「他人の気持をおしはかること。」(前掲書)と説明されている。つまり、前者は自分で判断して自分で...
「あなた。出ていくって、本当なの。」
久しぶりに私は妻の声を聴いた。声が喉に詰まっているのか、他人が遠くで話しているように思えた。
「ああ。お前も、なんだ。優子の家におれば、気を遣うだろうから。しばらくの間でいいから、別居するのがいいと思ってさ。適当な家を駅前の不動産屋が紹介してくれたものだから、...
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