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■近代文藝之研究|研究|自然主義の價値(30)

■近代文藝之研究|研究|自然主義の價値|四 (2)

されば殘るところは其の知的事象を歩々成るべく實驗に近似して自然と思はれる方式に展開せしめ、一々相當の情緒の反應し來たつて事象と相即するを期し、さて斯くの如き知情融會の第三段境を其のまゝ忠實に表出しやうとする。客觀的藝術の極處である。直接間接の實驗に導かれて事柄がおのづからの如く展開すると共に、第三段の情を吸ひ出だして生きた事柄になる。是れを片端から直寫して行く。排主觀といひ、排技巧といひ、無思念といひ、描寫の自然といふは是れに外ならぬ。
又感想が第四段に達するまで描寫の筆を上げず、さて第四段の情趣から始めて忠實に寫しにかゝるといふ場合には主觀挿入的となる。すなはち所謂印象的自然主義である。而して此の種の描寫も歸するところは第三段の客觀化せられた世界を活現するにあり、また第三段からする描寫もつまりは此の第四段の情趣に達しなければ味が無い。自然主義に於いては双方相合し得る。
而して若し第四段の情趣からするものが、其の行きどまりに第三境を見ずして別の世界を見るとすれば、そこに神秘主義、標象主義が生ずるのであらう。



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*註1:されば殘るところは
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
「殘るところ」は原文では「殘るころ」となっていたが、文意から「と」が脱字していると考え改めたが、抱月の記述上の癖とも考えられる。⇒参照:[註9]に同パターンの脱字。

*註2:情緒の反應
「情」の正字体。「月」は「円」。
「緒」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syo_o.jpg

*註3:知情融會・第三段の情・第四段の情趣
「情」の正字体。「月」は「円」。

*註4:第三段境
「境」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_sakai.jpg

*註5:實驗に導かれて
「導」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註6:又感想が
「又」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mata.jpg

*註7:達するまで・達しなければ
「達」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註8:所謂印象的自然主義
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註9:歸するところは
「歸するところ」は原文では「歸するころ」となっていたが、文意から「と」が脱字していると考え改めたが、抱月の記述上の癖とも考えられる。⇒参照:[註1]に同パターンの脱字。

*註10:神秘主義
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。

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http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html




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