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人生カカト落とし


アナンシの血脈、読んだ

アナンシの血脈(上・下、ニール・ゲイマン著/金原瑞人訳 角川文庫)についてとりとめもなく。
気をつけはしたけど、すこ~しネタバレ気味になっているかも。

最近、本を読もうにもどうにもノれないことが多くて弱っていたが、この本は手に取ったらつるりと読めた。
読んだのが、病院の待合室で延々と待っている間だったからかもしれないし、気になっていた本が文庫化されて買ったのに、ずっと積んでいたのだが。

平穏に生きることを望むファット・チャーリーは、少年時代、父親の破天荒で出鱈目な行動に振り回された。
結婚を考えていた彼に父の訃報がもたらされ、父が神だったと告げられる。
さらに、神の力をもつ存在も知らなかった兄弟・スパイダーが現れ、日常が崩れ去る。

中途で出てくるいまいち自覚のない幽霊にディッシュの『ビジネスマン』を、終盤近くの居心地のいい墓地にビーグルの『心地よく秘密めいたところ』をそれぞれ思い浮かべた。
……と挙げると、両作品を知っていれば感じ取ってもらえるかもしれない、実は切羽詰まったサスペンスも流血の事態もあるのだが、作品のトーンはえらく明るい。

(主に)英米を舞台に、饒舌なマジカルリアリズムの世界が展開する。
主人公の少年時代のご近所さんたる老婦人たちがマクベスの魔女よろしく儀式を行い(薬草と黒いロウソクの代わりにミックスハーブとペンギンロウソクでw)、神話の象徴的な動物の精霊がはかりごとを巡らせる。

ファット・チャーリーの父は、アフリカ神話の蜘蛛の神だというアナンシ、典型的なトリック・スターだ。
その存在が導くように、軽やかに、狂騒的に物語は展開し、祝祭の明るさ、その後のすがすがしい静けさで閉じられる。

面白かった。
うん、小説、今でも読めるんだ、面白ければ。

感想を書こうとツラツラ考えていたら、最初の印象と違った作品なのでは、と思うに至った。
奔放にぶちまけられたように見える物事は、実は必要な要素が巧みに配置され、饒舌な語りにより猥雑な過剰さに映るよう、計算されているのではないか?
それこそ、蜘蛛が精緻な巣を織るように、作者は自在に小説を組み上げている。

話の展開や構造についてあれこれ考えて、あれ? と、〈ゲド戦記〉で見た構図に似たものを感じた。
スパイダーと影の類似ではない。
同じく「分かたれた存在」ではあっても、スパイダーは「あり得たかもしれない別の可能性」であって、〈ゲド戦記〉の影とはまるで異なる。
(実は、両方の作品にある意味分身のような存在が登場していると気付いたのはついさっき、これを書いている最中だったりする)
似て見えたのは「成長すること」の構図だ。
〈ゲド戦記〉ならゲドのヒスイへの感情、本作では……ここで語ればネタバレになる、すこしボカシて語ればファット・チャーリーの苛立ち・怒りだろう。
「敵」と感じる相手がいても、問題を乗り越え成長したとき、その相手は現実には大きな問題ではない・敵とはいえない存在になっている。
相手を叩きのめすことがではなく、そんな関係性を超えていける力を持つことこそが成長なのじゃないか、と素直に思う。

実際に敵対する相手も存在するが、物語は読者の思惑をかわすかのように展開する。
主人公はそれを敵視する者たちと対決するが、その方法は暴力や流血の事態ではない。
悪意で動く存在を降すのは、ある意味彼ら自身の行動の結果だ。

平穏にとちぢこまるように生きていたファット・チャーリーは、決断する心と人生を愉しむ力を得、物語と歌に満たされて祝祭は幕を閉じる。

いや~、楽しかった。
同じ作者の『アメリカン・ゴッズ』読みたいな~、でもまだハードカバーだしな~、うーん……

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2009/12/20 23:53
ヘルミーナさん
いらっしゃいませ。
ディッシュで最初に思い浮かぶのは『いさましいちびのトースター』だったりしますw
現実感が変容する類の話でもそうですが、量子力学が一番影響を与えたのは
フィクションの世界なんじゃないかな〜、と思います。

ながつきさん
以前読んだ『ネバーウェア』も良かったです。
列記された名前、ああこの人も好きなんだと、わくわくしますね〜
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2009/12/16 21:15
「アナンシの血脈」ますます読みたくなりました♪
日本の出版順は逆だけど、同じ架空世界が舞台の「アメリカン・ゴッズ」の方が書かれたのは先ですね。
邦訳されてうれしいです。どちらも未読ですが…。読む順番はどちらが先でも問題ないそうです。

先日ゲイマンのことを少し調べたんですが、子供時代に読んできたという作家が知った名前ばかりで、
ちょっとうれしくなりました。ルイス、トールキン、ポー 、ムアコック 、ル=グウィン 、
ダンセイニ、チェスタトン、ゼラズニイ 、ハインライン 、ラブクラフト 、ジーンウルフ~
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2009/12/16 21:10
こちらでははじめまして☆
本文とは激しくずれているのですが、
トマス・M・ディッシュは『アジアの岸辺』がよかったです。
『永久帰還装置』もそうですが、
現実感が崩壊してゆくモノが好きなのかも…。

トリックスターといえば、
ユングとケレーニーの『トリックスター』が積ん読本です・゚.・(ノд`).・。゚.



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