それは　ご主人の留守の時に　起こったのでした。
＊　＊　＊
僕は　マタタビに酔ぱらって　ご主人のライターを　前足ではさみ　後ろ足で　キック、キック、キックゥ・・・。
ボーッと　炎があがって　「あちぃ！」　鼻の頭を　火傷してしまいました。
でも　それだけじゃなかったのです。
炎が消えません。
「しまった！」　僕は　心の底で叫びました。
僕は　こわくなって　外に飛び出し　そのまま　逃げてしまったのです。
＊　＊　＊
僕は　街を彷徨いました・・・世間というものはこんなに薄情なものだったのでしょうか。
猫の世界は縄張りが厳しく、侵入する者はどこへ行っても脅しや暴力を受けます。
僕は　逃げに　逃げました。
きっと　もう　はるか遠くの街まできてしまっているにちがいありません。

もう　どのくらい歩いたのでしょう・・・・おなかがすいてきました。
何か　いい匂いがします。
「おぉっ！　おさかな屋さんじゃないですかぁ」
しばらく　店の前に座っていたら、店のご主人が　イワシの頭　を　くれました。
人の情けというものに　胸が熱くなりました。<ｸﾞｽﾝ!>　2日ぶりの食事だったのです。
しかし　それも束の間　地元のゴロツキ猫に　「お前はどこの輩だ！出て行けっ！」と因縁をつけられ
後ろから　ネコパンチ、引っ掻き、耳かじり、キックゥ・・　
全部　横取りされてしまいました。
＊　＊　＊
今日は　クリスマス・イブ。
家々の窓からは暖かな灯りがもれ、幸せそうな笑い声が聞こえてきます。
・・・でも　僕は　ひとりぼっち。。食べるものさえありません。
＊　＊　＊
夜更け前の雨が　雪に変わりました。
雪の上を歩くと　積った雪の冷たさが　肉球に　滲みてきます。
もう　3日　何も食べていません。
最期に　ルーベンスの「キリスト降架」を　見たいと思いました。
意識は朦朧とし　ふらつく足で　やっと　教会にたどりました。
「やっと　着いたぁ」　教会を見上げ　白い息を吐きながら　小さな声で　つぶやきました。
そして　最期の力を　振り絞り　教会の階段を　パウダースノーを巻き上げながら　駆け上がったのでした。
＊　＊　＊
教会の中の　空気は　凛と冷えていました。
真っ暗です・・「最期なのに画も見ることができないのかぁ。なんて不幸なんだ」と思いました。

しかし、僕はネコだったので　暗い中でも　目が効く為　月が名画を照らす前に見ることができてしまいました。
・・・・もう　思い残すことは　ありません。
ご主人との暖かな暮らしを思い出していました。すごく幸せで暖かな気持ちになりました。
「このまま　天国に行こう」　僕は　思いました。

だんだん　暖かな気持ちになってくると「ハワイアン」が　聞こえてきます。
僕は　ありったけの力を振り絞って　音楽に合わせ　踊りました。
「花」　「あなた」　「波」　「愛する」　「美しい」・・・　おぉ　みごとな　ハンドモーション。
（これだけできるネコはいない）自分で　自分の技のすごさに　溺れそうになりました。
僕は　ハワイアンに合わせ　「フラダンス」を踊りだしたのです。

しばらくして　教会で深夜に踊っているヤツがいるというので　不審に思い　ご主人が現れました。
実は　この教会は　ご主人の家の隣にある教会だったです。「おぉ　こんなに近所だったのかぁ＾＾；」僕は気がついたのです。

そして　ご主人が　言いました。
「待たせたなぁ　ネコォ～」

僕は　やっと暖かい家に帰ることが　できました。

「ネコォ～、帰ったら　ごはんにしようね」
「にゃお～ん！」
いままで　生きてきた中で　一番　幸せに感じた日でした。

これが　世に有名な　「フラダンスのネコ」の話です。　
（「フランダースの犬」は　悲しい物語ですが　「フラダンスのネコ」はちょっと間抜けなお話でした）

Merry Christmas!!

長文　お付き合いありがとうございました(=^.^=)