Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(132)

 じっと注意して見ると、胸が規則的に上下しているのも判る。ごくわずかではあるが。
 「「発作」はおさまってるんだろ?手は離しても大丈夫なんじゃないの?」
 「…離さないのは、私の方じゃないんだ」
 ほら、と言って、ゆっくりと手を開いて見せる。クリスの華奢な手首に、父親のごつい指が食い込んでいる。痕が残るのではないかと思われるほど。
 「痛そうだけど…大丈夫なのか?」
 「本人に比べれば、大したことでは…」
 そう答えるクリスの横で、その祖母が身を屈めて、クリスの手首に食い込む指を一本一本引きはがす。
 「…症状が落ち着いているのだったら…こういうのは、嫁さんの仕事、だろう?」
 そう言って、王妃の方を振り向く。一瞬たじろいだ王妃がおもむろにこちらへやってくる。
 「クリスも、立ち上がれなくなるほど力を持ってかれてるんじゃないよ。いくら親だからって、気前がいいにもほどがある」
 「…それ、母さんに言ってやった事、ある?」
 「ないよ。…残念ながら、あんたのそれが現れるまで、原因が判らなかったんだから」
 「そっか…でもねえ、……どれくらいで手を引いてくれるか、わからなかったから。ここから根こそぎ持ってかれるのは、さすがにまずいと思って」
 「根こそぎ、って」
 差しのべてきたクリスの手を掴んで立つのを手伝う。…まだ、手は冷たいし、多少ふらつくが、何とか自分の足で立ち上がる。クリスが「ハウス」とつぶやいてリンドブルムを戻らせる。
 「そうじゃなくても、心臓に負担がかかるのは、良くないでしょ?まだ、私の方が回復が早いし」
 そう言うとクリスは、王妃の方を向いて続けた。
 「ごっそり持って行ったので、当分は来ないと思います。ですから、傍にいらしても大丈夫かと思います」
 「…それはいいのですけど……ひとり、増えているみたいなのだけど、どなた?聞いていたのは、お祖母様がいらっしゃる、とだけでしたが」
 「…ああ、そういえば……来てたんだっけ、クリストファーも」
 天蓋の陰で、「ひどっ」と呟く声が聞こえる。
 「ば…おばあさまから説明していただけますか?あれが誰で、どうしてここにいるのか。私は…しゃべるのも…辛くて」
 そう言ってこちらに凭れかかってくるが、本当に辛いのか、単に説明が面倒なだけかは判らない。確かに、体に触れた感じでは、体温がまだ戻っていないようだが。
 クラウディアがやれやれ、と溜め息をついてクリストファーを手招きする。
 「こちらは、クリストファー・エリオット。故あって里子に出していましたが…うちの孫の一人です。クリスティーナと同じ日に生まれましたの。ちなみに、私には子供は一人しかおりません」
 もって回った物言いは、この一族の特技なんだろうか?
 「回りくどい言い方をなさらずとも、この方も陛下の御子の一人だとおっしゃればよろしいのに」
 「でも…この子にはあの目がついていませんので。そう主張して否定されたらかわいそうでしょう?」
 「かわいそうって歳でもないし、うちに帰ればちゃんと両親がいるのに」
 クリスが低い声でぼそりと呟く。よほど彼の事が気に食わないらしい。
 「親御さんの立場でその発言はいかがなものかと思われますが?」
 「クリスティーナだって、あの目が無ければ、この部屋に入れたかどうか」
 「彼女をここに連れてくるのに、ずいぶん抵抗なさったと聞いておりますが。それでもそうおっしゃる?」
 「それはこちらの事情ですから。最終的にクリスティーナをうちに戻してくれるという約束でお出ししているのですが。それは聞いていませんか?」
 凭れかかっているクリスが体をこわばらせる。
 「伺ってますわ。それで「ゲオルギア」を名乗らないのだとも」
 「…あの…クリスを休ませたいのですが…退室してもよろしいでしょうか?」
 三組の視線がこちらを向く。
 「…そうですわね。気がつかなくてごめんなさいね。部屋の場所は、わかる?」
 「だいたいは。…クリスも、意識が無い訳じゃないし」
 しがみつくクリスを促して退室する。クリスの足元がおぼつかないので、寝室を出たところで、抱え上げる。
 「…ごめん。いろいろと」
 抱え上げられたクリスがつぶやく。
 「言いたい事はいろいろあるが…とにかく今は休む方が先だ」

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