Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(127)

 ――こうやって無事に育ちあがってくれて、ほっとしておるよ。…性格の方は幾分素直さが減ってしまったようだがな。それも最初の主に比べればかわいいもの。…外の世界というのは、そんなに風当りの厳しいものなのか?森の主。
 そう問いかけられて、クリスの祖母が肩を竦める。
 「時と場合によるわね。自然の風と同じで。根こそぎ折れてしまうほどの強風には、なかなかお目にかかれないけどね」
 ――ふむ。…してみると、主はよほどの強風に晒されたと見えるの。人の子が、皆生来はあのようなものとするならば。
 …あ、この話の風向きは、まずい。
 「あの…ところで…どうして私がその「継承者」と見做されるのか、お聞きしたいのですが」
 ――なぜか、と問われるか?…さて。…理解しやすい言葉で言うと、「先の主たちと似ていたから」であろうかな。…むろん、外見が、ではないぞ?
 「…はあ…」
 大魔法使いの見た目が一歳児…というのは、想像し難い。
 「では、何が?」
 ――一言で言うならば、人の子が言うところの、魂、かな。人の子が「転生」と称するものが、同じかどうかは、判らぬが。
 「……転生…」
 「あんたがたの意見ではどうなの?この人はかつてのあんたがたの主の生まれ変わりだと思う?」
 ――…であればいい、とは思うとるがな。前の主の時は、見極めがつかなんだで。
 「そうであればいい、というのは、なぜでしょう?」
 ――そなたにはおらぬのかな?もうひとたび、まみえたい、と思う、失われし者が。…まあ、二十年ほどしか生きておらぬのでは、無理からぬやもな。
 「生まれ変わりを待てるほど、人は長生きしないもの。無理を言わないでもらいたいわ」
 ――そうだったか?そういうときは、自らも転生するものと相場が決まっておるが。
 …相場?
 「どこからそう言う知識を仕入れてくるやら。大方、学院の女子学生の戯言辺りかと思うけど」
 ――そう言うそなたとて、かつては女子学生であったろうに。
 「私の事はどうだっていいでしょう?とっとと「継承者」についての説明を終わらせてほしいね」
 ――何か、急ぐ理由でも?
 「理由はいくつかあるわね。でも、それ聞いてる暇があったら、説明をお願いしたいわ。あんたがたを「継承」する上での、メリットとデメリットについて。連れがそろそろ退屈し出しているから、手短に」
 継承する上での、メリットとデメリット?
 ――むちゃを言うの。何がメリットで、何がデメリットかは、人によって受け止め方が違おう?
 「でも、それこそ赤ん坊のころから見てきてるんだから、この人の考え方の傾向は判るだろ?」
 ――それはまあ、ある程度は、な。
 えーと…
 「その、説明は聞かないといけないのでしょうか?」
 「聞かなくても契約は可能だけど、注意点は聞いておいた方がいいと思うが?」
 「えーと…説明も聞かない、契約もしない、という選択肢は…」
 ――契約を拒む、というのか?そなたは
 半透明の緑色をした美女の顔が苦痛に歪む。…それは見るに忍びない。が。
 ――…だが、その選択は、もはやできぬ。そなたは既に自らを「庭園を継ぐ者」と宣言してしまっている。
 …は?そんな覚えは…
 ――古の、「力ある言葉」で。
 ……まさか。
 「どおりであっさり通路が開いた訳だわね。…通路を開く呪文、あの子から聞いた?」
 うなずくしかない。
 「よっぽど、切羽詰まってるのねえ。そんなだまし討ちみたいな手を使うなんて」
 切羽詰まっている事は想像に難くないが…だまし討ちって?
 ――自身が了解していないのに、勝手に本人自身に後継者を名乗らせた、という訳か。…言葉が判らぬのをよい事に。
 …もはや何が何やら…
 「…聞こえてる?あの子は切羽詰まってる。だから、ぜひともあなたには「庭園の主」になってもらいたい。だから、ちゃんと話を聞いて」
 「……聞こえています。で、その、メリットとデメリット、というのは」
 ――そなたがわれらと契約すれば、時、所をかまわず、われらの力を引き出す事ができる。しかし、常にわれらがそなたとともにある。
 「…常に?」
 ――いつ、いかなる時も。それが最初の契約であったが故。
 「…それは、つまり、ここから出られない、と?」
 ――それは意味しない。しかし、われらの一部がそなたにつき従う。
 「さっきから気になってたんだけど、その、「われら」って?」
 ――われら、とは…この「庭園」の内にある、すべてのモノ。…ああ、当然ながら、学院の学生と契約しているモノは除くがな。
 「…すべて?」
 ――大地に属するモノ、大気に属するモノ、を含めて、な。
 「…その、契約をしてしまうと、以降、学生はここでは契約ができなくなる?」
 ――それは、ないかと思う。われら自身、どれだけのモノがわれらに属しているか把握しておらぬ故。
 大雑把な。
 「まどろっこしいな。その、契約とやらの正確な文言は判るか?」

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