自作小説倶楽部10月投稿
- カテゴリ:自作小説
- 2026/10/31 21:08:21
『3年前の殺人』
明るい店内には不釣り合いな男だった。
だから、その男が自分を呼び出した男だと理解できた。他の客はカップルや友人同士らしく楽し気に飲み食いし騒いでいる。
男は喧騒から自らを切り離すかのように背を丸め、隅の席に座っていた。私は必要ないとわかってはいたが自己紹介をして男の横に腰を下ろした。
「俺はSと言います」
男、Sはかすれた声で言った。声帯だけでなく肺も悪いのか呼吸に雑音が混じる。
「貴男は3年前の殺人事件について知っていることがあると電話でおっしゃいましたね。どういうことでしょう」
あせりは禁物だとわかっていたが、つい、聞いてしまう。
Sはじろじろと私を値踏みすると再び口を開く。
「この店にいるほとんどの人間は俺のような底辺の人間なんて目に入らないんでしょうな。あんただって、こうして会うことも無ければ気付きもしなかったでしょう。
仕事が長続きしたことは無い。
唯一、子供の頃から続いているのはガラスを加工してガラス玉にする趣味だ。
商店街の共同スペースで時々売って、生活の足しにしている。
3年前、あの女がガラス玉を買ったのは収穫祭の一週間前だった。
青くて大きなやつを星の欠片みたいだ、と言ってはしゃいでいた。
不幸な女さ。若くて、美人で、金もありそうなのに、ああ、彼氏は将来有望な医者の卵だって自慢してた。それなのに収穫祭の夜に何ものかに殺されるなんて、
彼氏への贈り物を作っているとも言っていたから、彼氏とうまくいけば、またいい客になってくれるんじゃないかと期待した。
そのせいだろうね。収穫祭の夜、ひとごみで彼女に気が付いたんだ。
てっきり彼氏とデートかと思ったが、それにしては困ったような顔をして人波に押されながら歩いていた。よく見ていると仮面を着けた男を追い掛けいるようだった。
走っているわけじゃないが男は小柄な彼女を忘れたかのように歩いていた。それでも彼女は男に追いつくと肩に手を掛けて相手を立ち止まらせると、何かを言っていた。
多分、男がひどく酔っぱらっていて、どこかで休もうと提案したんだろう。彼女が男の腕を掴んで、二人は脇道に入っていった」
「その男の特徴は?」
早鐘のような心臓の音を感じながら、私は努めて冷静に訊いた。Sは嫌な笑みを浮かべた。
「あれは、あんただろう」
絶句。
「顔はわからなかったが、背格好はほぼ同じだ。髪は今より短かった。しかし、テレビで見たぞ。あんたは彼女が俺のガラス玉で作ったお守りを今も持っているんだろう」
ようやく合点がいく。
彼女から贈られたおまもりは今も大切に持っている。
研究で賞を取った時、テレビカメラの前で尋ねられたから「幸運のお守りです」と掲げて見せてしまった。
「Sさん。目撃談についても、何故今頃に事件関係者に接触してきたのかも、我々に話していただけますかな」
私とSとの間に割り込んできたのは、3年前知りあった刑事だった。最初から我々の会話を盗み聞きしていたはずだが今のいままで完ぺきに気配を消していた。刑事は私にも声を掛ける。
「貴男と同じくらいの身長で、当時、彼女と面識があった人間に心当たりはありますか」
私の容疑が晴れてからこの刑事さんには随分親切にしてもらったはずだが、全身から出る威圧感はどうしても好きになれない。
しかし、真犯人を突き止めるまで手を切るつもりは無い。
胸の中で、収穫祭の日に彼女に会いに行けなかったこと、デート時間の直前にメールで断りの連絡をしたことの後悔が、また胸の中でうずいた。
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- E.Grey
- 2026/11/03 04:44
- あとからひょいと出てきた目撃者、被害者をストーカーしていたのかな?
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