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ジュエルビースト

ある日、村の長がオレに話してくれた昔話。
天に最も近い山に棲むジュエルビースト。
その獣は、かつて人間だったという…。

ある日、青年ギラクは幼馴染の愛らしい娘マハルに「もう、あなたとは会えないの」と告げられた。「なぜ?」ギラクは問う。「…結婚するの。おばあさんが決めたのよ。借金がたくさんあって、先月父さんが亡くなってしまったから。借金を肩代わりしてくれた人のところにお嫁にいくの」「母さんはずっと病気で治療にたくさんお金が要ったから」「父さんは、母さんが亡くなってしまってから魂が抜けたようになっちゃっていたの。わたし、知ってるの。おばあさんは母さんがキライで、母さんに似てるわたしのこともキライなの。だから…」
「お金なら、僕がなんとかするよ!蓄えだって少しはあるし。大工の仕事も増やして…」「そんなんじゃ、全然足りないのよ!… ごめんなさい。ありがとう、ギラクだけよ。わたしのこといつも気にかけてくれたの。」

その夜、ギラクは赤い月に向かって懇願した。
「どうか、マハルを僕だけのものにしてください」
「どんな苦しみも耐えてみせますから」

涙を流しながら祈るギラクの前に揺らめく炎のような、そのくせ熱のない光の柱が現れた。

「お前の苦しみなど、興味はない」
「お前の望みはマハルを自分のものにすること。叶えることなど容易いことだ。だが、お前は何を差し出せる?マハルの価値に相応しい対価をお前は持っているのか?」

ギラクは驚愕し、そして答えた
「僕は僕自身しか差し出せるものはありません。それでは不足でしょうか。」

「お前の肉体など、わたしにとってはまばたきする間に朽ちてしまうものだ。…いや、待てよ。お前は永遠の命を欲しくはないか? そして、望むままの財宝も」

「…夢のようなお話です。いいえ、これは夢なのですね。きっと明日の朝、目覚めたら僕は泣きながら目を覚ますのでしょう…」ギラクはつぶやき目を閉じた。

朝、いつもの寝台の上で目覚めたギラクは右の肩甲骨のあたりに鋭い痛みを感じ思わず体を捩った。鏡で見ると右の肩甲骨にはオパールのような輝きを持つ石が皮膚を突き破って出現していた。ギラクは痛みに難儀しながらも、それを引き抜いた。

次の夜は左肘から、その次の夜には右のふくらはぎから…毎朝、痛みと共にギラクの体内からは色とりどりの石が皮膚を突き破って出現した。石を抜き取った後の皮膚は竜の鱗のような固い瘡蓋で覆われた。

ギラクは、集まったその石を街の鑑定士に見せた。石はどれも宝石として高く売れ、ギラクはマハルの家が負った負債を全て支払ってもなお余るほどの財を得た。

ギラクの望みどおり、ギラクの花嫁となったマハルはその体の秘密を知ることになった。
毎朝、苦痛に呻きながら宝石を取り出すギラクの姿に衝撃を受けたマハルは「これ以上、あなたが苦しむ姿を見たくない」と涙ぐむが「…これは神との契約なんだ。逃げることはできないよ。大丈夫、このくらいの痛みは君がいてくれたなら何でもないよ」ギラクは笑う。

やがて、ギラクとマハルの間には4人の子供が生まれ惜しみない愛情のもと、何不自由なく育てられた。

ギラクの体はあらゆる場所が固い瘡蓋になっており、ギラクの苦痛も激しくなっていたがマハルは「私たちの子供のためにも、もっと大きな宝石が出来たらいいのに」とつぶやいた。
ギラクは「マハルや子供のために、そうできたらいいな」と答えた。

子供たちが皆成人する頃には、ギラクは自らの両目も失っていた。代わりに彼らは美しい巨大なエメラルドを二つ手にいれた。

「愛しいあなた、わたしがあなたの両目になるわ。」マハルは言う。
「君や子供たちが幸せなら、それだけで僕も幸福だよ」とギラクは答える。

しかし、愛する者たちの姿をその目で見ることが叶わなくなった悲しみは抑えきれずギラクは一人慟哭した。

月日は流れ、ギラクとマハルは自分たちと子供以外の親族にも宝石を分け与え一族は王侯のように暮らしていた。そして、ギラクは体のほとんど全ての皮膚が固い瘡蓋になっていった。

二人にとって、初めての孫も生まれた。ギラクは喜び孫を腕に抱きあげたが赤子は火がついたように泣き叫んだ。
マハルは思わず孫をギラクから乱暴に取り上げた。

ある朝、ギラクはこれまでとは異質な鋭い痛みを左胸に感じた。長い苦悶の果てにギラクは左胸から巨大なルビーを生み出した。すでにギラクの両目は失われ暗い眼窩のみ。人間らしい皮膚は残っていなかった。固い鱗に全身を覆われたギラクは自身の胸から落ちたルビーを巨大な鉤爪で握りつぶし咆哮をあげた。

人間とは異質な叫び声を聞いたマハルはギラクにかけよったが、ギラクはその体を無造作に振り払った。

ギラクは駆けた。全身の痛みから逃げるため、風のように速く。ギラクは自分が何者だったかも忘れた。ただ自分を繋ぎ止めていた目に見えぬ鎖が溶け落ち、真の自由を得た解放感のみがあった。固い瘡蓋は剥げ落ち、ギラクの体は巨大な獣となった。


「何年も後に天に最も近いとされる険しい山の頂で、全身を宝石に覆われた光り輝く獣を見たという者がいた。それがギラクだったのかは誰も知らない。」オレは村長の爺に尋ねる。「ジュエルビーストは今もいるの?」
村長は「お前のここに」と、言いながらオレの額に触れた。

 

#日記広場:自作小説

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2026/10/04 21:49
> もふもふ0304さん
感想をありがとう。テーマ的には似てるかもね。
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2026/10/04 21:38
「幸福の王子」を思いおこさせる。
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2026/10/04 20:18
> ちょくちょくさん
読んでくれて、ありがとう^^
うん、でもギラクは与えられたギフト以上のものを失ってるんだよ。
「自分自身」の肉体と最後は「ギラクだった精神」も。
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2026/10/04 19:46
とても切ないお話だ・・・
特別なギフトも続くと当たり前になってしまうことが怖いね。
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2026/10/04 17:30
> #ひろあきさん
いやいや、真理だと思うわ。そういう視点はなかったから参考になるよ。
ありがとうね。
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2026/10/04 17:10
こんばんは。
 《犠牲のうえに成り立つ愛はない》なんていったら
ロマンティストすぎるかな?




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