破壊の月
- カテゴリ:小説/詩
- 2026/09/20 17:03:03
I. 宿命(おとづれ)
青い夜の底から、しづかに、
ひとつの、冷たい火がのぼる。
それは、僕たちの古い家を、
そのやさしい影ごと、焼きつくすために。
ひとつの、冷たい火がのぼる。
それは、僕たちの古い家を、
そのやさしい影ごと、焼きつくすために。
あゝ、あれは僕の夢を喰ふ月。
銀の、するどい、あやしい刃。
見なれた窓も、ひそやかな庭も、
みな透きとほる灰に、かへってゆく。
銀の、するどい、あやしい刃。
見なれた窓も、ひそやかな庭も、
みな透きとほる灰に、かへってゆく。
さよなら、僕が愛した小さなものたち。
美しかったものは、みな、
ただ一度、はげしくこはれる。
美しかったものは、みな、
ただ一度、はげしくこはれる。
あとにのこる、うつろな光のなかで、
僕は新しく、哀しい歌を、
口ずさみ、どこへ歩いてゆかう。
僕は新しく、哀しい歌を、
口ずさみ、どこへ歩いてゆかう。
II. 崩壊(ひかりのなかで)
風は、僕の知らない言葉をはこび、
ちぎれた雲は、あわただしく流れる。
あそこでは、僕のたいせつな過去が、
きらめきながら、こなごなに砕けてゐる。
ちぎれた雲は、あわただしく流れる。
あそこでは、僕のたいせつな過去が、
きらめきながら、こなごなに砕けてゐる。
月は、冷徹なひとみのやうに、
すべてを見下ろし、ただ微笑むばかり。
追憶のテラスも、青いインクのノートも、
いまはもう、光のなかの幻。
すべてを見下ろし、ただ微笑むばかり。
追憶のテラスも、青いインクのノートも、
いまはもう、光のなかの幻。
すべてを失ふことは、これほどまでに、
しづかで、ただ美しいことだったらうか。
涙さえ、乾いた砂に吸われて消える。
しづかで、ただ美しいことだったらうか。
涙さえ、乾いた砂に吸われて消える。
おまへを責める言葉を、僕は持たない。
ただ、すべてが過ぎ去ったあとの、
この透明な夜のなかに、立ち尽くしてゐる。
ただ、すべてが過ぎ去ったあとの、
この透明な夜のなかに、立ち尽くしてゐる。
III. 忘却(あたらしき朝へ)
夜がひそかに、その重い扉をひらくとき、
破壊の月は、西の山辺へと傾いてゆく。
あとに残されたのは、ひろがった荒野と、
僕の、小さな、ふるえる影法師。
破壊の月は、西の山辺へと傾いてゆく。
あとに残されたのは、ひろがった荒野と、
僕の、小さな、ふるえる影法師。
もう、なにも呼び戻すことはすまい。
こはれたものは、こはれたままでいい。
僕はポケットのなかに、ひとひらの灰を入れ、
誰も知らない、あたらしい道をえらぶ。
こはれたものは、こはれたままでいい。
僕はポケットのなかに、ひとひらの灰を入れ、
誰も知らない、あたらしい道をえらぶ。
さよなら、僕のやさしかった過去(きのふ)。
月が連れ去った、あの美しい部屋よ。
僕はもう、ふり返ることをやめよう。
月が連れ去った、あの美しい部屋よ。
僕はもう、ふり返ることをやめよう。
東の空が、淡い茱萸(ぐみ)色にそまる。
あたらしき朝の、つめたい風のなか、
僕は最初の、一歩をふみだす。
あたらしき朝の、つめたい風のなか、
僕は最初の、一歩をふみだす。


























