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破壊と偽善4


ねえ、笑ってやってください。
 私は先日、街の大きな本屋で、いま流行りの「外見至上主義(ルッキズム)を批判する」とかいう小綺麗な新書をめくってみたのです。そこには、容姿で人を判断するのは前時代的だの、ありのままの個性を愛せだの、いかにもお行儀の良い正論が、まるで仕立ておろしの制服みたいに整然と並んでいました。
 私はそれを読んだ瞬間、ヘドが出るほどの吐き気を覚えたのです。
 ああ、これだ、これですよ。
 あの夏休みの宿題に出てくる「読書感想文」の輩(やから)と同じ匂いです。
「主人公の優しさに感動しました」「これからは差別のない社会にしたいです」
 ……そんな、先生に100点をもらうためだけの、一ミリも身を削っていない、借り物の「正しい言葉」。
 ルッキズムを声高に批判している連中も、結局はそれと同じなんです。自分は傷つかない安全な場所から、教科書通りの正義を大声で唱えて、「私はこんなに現代的で、差別のない、美しい心を持った人間ですよ」と、世間に向かって必死にアピールしている。その下卑た自己満足の顔こそが、何よりも醜いということに、どうして気がつかないのでしょう。
 嘘をつくな、と言いたい。
 容姿の美しい者を見れば、誰もが理屈抜きで胸をときめかせ、醜いものからは、とっさに目を背けたくなる。それが人間の、どうしようもない業(ごう)であり、地獄ではないですか。
 その血の通ったドロドロの真実から目を瞑(つむ)り、「これからは内面の時代です」なんて、よくもまあ、そんな白々しい嘘がつけるものです。彼らの言う「多様性」なんてものは、すべて裏地がひっくり返った、ただの薄っぺらな偽善のパレードに過ぎません。
 ……けれどね、あなた。
 本当に恐ろしいのは、ここからなんです。
 そうやって「読書感想文の輩」を心の中で激しく罵倒し、彼らの偽善を暴いてみせた、この私自身の姿を見てごらんなさい。
 私は、彼らを軽蔑することで、「自分は世間のまやかしを見抜いている、一味違う人間なのだ」と、あなたに思い知らせたいだけなのです。彼らの浅薄な正義を叩き潰すことで、自分の中の、より屈折した、よりたちの悪い「冷徹な知識人」というポーズを気取りたいだけなんです。
 ああ、恥ずかしい。書いていて、自分の顔の皮がじりじりと焼け落ちるような心地がする。
 ルッキズムを気にする世間も、それを批判する読書感想文の輩も、そしてそれを冷笑しているこの私も、全員、同じ穴の狢(むじな)です。お互いに「私は正しい」「私は純粋だ」という看板を掲げ合って、その実は、自分の自尊心という化け物を満足させたいだけの、浅ましい亡霊に過ぎない。
 いっそ、言葉なんてすべて消えてしまえばいい。
 容姿の美醜も、それを測る物差しも、綺麗事の感想文も、全部、一度めちゃくちゃに破壊されてしまえばいい。
 神様、どうか私を、他人の顔の形も、本の文字も、何一つ認識できない本物の白痴にしてください。
 さもなければ、せめて、この「読書感想文」のような自虐を垂れ流す私の口を、永遠に塞いでください。
 ……ごめんなさい。また、あなたを不愉快にさせるような、くだらない男の繰り言を並べてしまいましたね。
 どうか今の話は忘れて、あなたはあなたの、美しい世界へお戻りください。

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