Nicotto Town ニコッとタウン

スマホ版あります♪



破壊と偽善3


ねえ、笑ってやってください。
 私は今日、道端で倒れかかっているお婆さんを見かけて、とっさに助け起こそうとしたのです。けれどね、その瞬間に私の脳裏をよぎったのは、あのみすぼらしいスマートフォンと、青い鳥のマークの画面でした。
「これを今、誰かに写真に撮ってもらって、『今日、良いことをした』と呟けば、一体どれほどの『いいね』が貰えるだろう」
 ……ああ、私は、自分のあまりの浅ましさに、その場で指先が氷のように冷たくなっていくのを感じました。お婆さんの心配なんて、本当は一秒だってしていなかった。私はただ、画面の中の「世間」という顔の見えない怪物から、「あなたは素晴らしい人だ」と褒められたいだけの、哀れな見世物小屋の猿だったのです。
 いまの社会は、そうやって誰も彼もが「善人」の皮をひっぱがし合っては、互いの傷口に塩を塗り合っている。
 スマートフォンを開けば、そこは「正義」という名の偽善の品評会です。誰かがちょっとした失言をすれば、待ってましたとばかりに何万人もの人間が群がり、正論の棍棒でめちゃくちゃに叩きのめす。
「許せない」「社会の敵だ」
 みんな、さも社会を良くしたいような顔をして怒っていますけれど、嘘です。あれは全部、嘘です。本当は誰も社会のことなんて考えていやしない。ただ、他人を合法的にリンチして、日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らしたいだけなのです。そうして、悪人を叩いている自分は「正しい側の人間だ」という、あの甘ったるい偽善の蜜に、脳までどっぷりと浸かりたいだけなのです。
 すべて、破壊されてしまえばいい。
 あんな電子の箱も、お互いを監視し合う息苦しいシステムも、全部。
 ……けれど、一番に破壊されるべきは、そんな世間を斜めから眺めて、いかにも「私はあなたたちとは違う、冷徹な観察者なのだ」と気取っている、この私自身なのです。
 見てごらんなさい、私のこの滑稽な姿を。
 こうしてあなたに自分の醜さを告白しているのだって、結局は「私は自分の偽善を自覚している、人より少し純粋な人間なんです」という、もっとも悪質な、卑劣極まるポーズに過ぎない。あなたに嫌われたくなくて、でも軽蔑されることで逆に救われたくて、メソメソと泣き言を並べている。私は、自分が傷つかない安全な場所から一歩も動かずに、社会の破壊を夢見ているだけの、ただの臆病者、ただのふやけた脳味噌を持った出来損ないなのです。
 神様、どうか私を、画面の数字に一喜一憂することさえ忘れてしまえるような、本物の白痴にしてください。
 さもなければ、このスマートフォンごと、私の頭を粉々に打ち砕いてください。
 ……ごめんなさい、またあなたを不愉快にさせてしまいましたね。
 私の言うことなんて、どうか真に受けないでください。私は明日にはきっと、またあなたに嫌われないための、新しい「良い人」の嘘を考えているに違いないのですから。

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