昨日の駅に、明日の夜が降りてくる
- カテゴリ:小説/詩
- 2026/08/15 04:50:24
ひとつの旅が ここで終わる
尖った三角屋根が 薄桃色の夕暮れを突き刺し
小鳥のさえずりのように かすかな合図が聞こえる
プラットホームは 静かに夜の匂いを吸い込んでいた
尖った三角屋根が 薄桃色の夕暮れを突き刺し
小鳥のさえずりのように かすかな合図が聞こえる
プラットホームは 静かに夜の匂いを吸い込んでいた
遠い異郷の町を いくつも掠めてきた
あの大いなる青い影――寝台列車が
大きな息を吐きながら レールの上に身を横たえる
窓の向こうには 見知らぬ誰かの微睡(まどろ)みと
置き忘れられた 幸福の記憶がかすんでいる
あの大いなる青い影――寝台列車が
大きな息を吐きながら レールの上に身を横たえる
窓の向こうには 見知らぬ誰かの微睡(まどろ)みと
置き忘れられた 幸福の記憶がかすんでいる
旅人よ 君はもう行かなくてよいのだ
かすかなランプの灯が 冷たい鉄の肌を濡らし
風は優しく 私たちの古いノートをめくるだろう
失われた季節の いちばん美しいその一瞬を
この終着駅の闇が そっと匿(かく)まってくれるから
かすかなランプの灯が 冷たい鉄の肌を濡らし
風は優しく 私たちの古いノートをめくるだろう
失われた季節の いちばん美しいその一瞬を
この終着駅の闇が そっと匿(かく)まってくれるから
さあ 目を閉じて かすかな汽笛の余韻のなかで
私は もう戻らないあの一日の夢を見る
私は もう戻らないあの一日の夢を見る
風のとおる薄暮のなかで
おまえの尖った三角屋根は ただ天空の翳(かげ)を測り
古びた木造の梁(はり)は 見えない重みに軋んでいた
高窓から差し込む 乾いた冬の光のなかに
誰も読まない時刻表の 煤けた数字が浮かんでいる
おまえの尖った三角屋根は ただ天空の翳(かげ)を測り
古びた木造の梁(はり)は 見えない重みに軋んでいた
高窓から差し込む 乾いた冬の光のなかに
誰も読まない時刻表の 煤けた数字が浮かんでいる
磨りガラスの向こう 凍てついた鉄路の終わりに
あの大いなる青い車体が ひっそりと息を止める
ビロードの座席は 去った人々の体温を忘れ
真鍮の読書灯は ともることもなく冷え切っていた
狭い寝台のカーテンが 小さく揺れるそのたびに
ちぎれた約束のような 淡い影が床にこぼれる
あの大いなる青い車体が ひっそりと息を止める
ビロードの座席は 去った人々の体温を忘れ
真鍮の読書灯は ともることもなく冷え切っていた
狭い寝台のカーテンが 小さく揺れるそのたびに
ちぎれた約束のような 淡い影が床にこぼれる
旅人よ 君が探していたものはここにはない
ただ冷徹な鉄骨の組み線と 去りゆくものの消え残る音
私はもう あの幸福なパステル画のなかへは戻れない
凍えた指先で そっと曇った窓ガラスを拭っても
外にはただ 名もなき夜が無限に広がっているだけだから
ただ冷徹な鉄骨の組み線と 去りゆくものの消え残る音
私はもう あの幸福なパステル画のなかへは戻れない
凍えた指先で そっと曇った窓ガラスを拭っても
外にはただ 名もなき夜が無限に広がっているだけだから
さあ 壊れた時計の針の下で 眠りにつくがいい
呼びかける声はもう どこからも届かないのだから
呼びかける声はもう どこからも届かないのだから
エピローグ:風のゆくえ、消えた乗車券
君を乗せた青い影が 闇の彼方へ消え去ってから
この終着駅には ただ剥き出しの静寂だけが残された
尖った三角屋根は いまや月光を等分に切り裂き
冷たいアスファルトの床に 僕の長い影を落とすばかり
トラスの鉄骨に巣をくう鳩の かすかな羽ばたきさえ
このがらんとした構造体のなかでは 重い嘆きのように響く
この終着駅には ただ剥き出しの静寂だけが残された
尖った三角屋根は いまや月光を等分に切り裂き
冷たいアスファルトの床に 僕の長い影を落とすばかり
トラスの鉄骨に巣をくう鳩の かすかな羽ばたきさえ
このがらんとした構造体のなかでは 重い嘆きのように響く
もう あの青い寝台列車が戻ることはないのだろう
錆びたレールの終端(車止め)は 行く手を失った僕の指先のようだ
真鍮の読書灯が照らしていた 君のうつむく横顔も
狭い車内に残された かすかなシトラスの香りの記憶も
夜の底を流れる風が すべて均一に押し流してゆく
改札口に落ちていた 日付のない乗車券の切れ端だけが
僕たちが確かにここにいたという 無口な証拠として震えている
錆びたレールの終端(車止め)は 行く手を失った僕の指先のようだ
真鍮の読書灯が照らしていた 君のうつむく横顔も
狭い車内に残された かすかなシトラスの香りの記憶も
夜の底を流れる風が すべて均一に押し流してゆく
改札口に落ちていた 日付のない乗車券の切れ端だけが
僕たちが確かにここにいたという 無口な証拠として震えている
旅人よ 僕の心のなかにだけ住み着いてしまった人よ
建築家が引く細いインクの線のように 僕たちの境界はあまりに脆く
ただひとつの季節が通りすぎる間に 引き裂かれてしまった
それでも僕は この煤けた高窓から朝焼けが差し込むまで
冷え切ったベンチに座り 届かない設計図を胸に抱いているだろう
建築家が引く細いインクの線のように 僕たちの境界はあまりに脆く
ただひとつの季節が通りすぎる間に 引き裂かれてしまった
それでも僕は この煤けた高窓から朝焼けが差し込むまで
冷え切ったベンチに座り 届かない設計図を胸に抱いているだろう
さあ 東の空がかすかに白み 新しい一日が始まる
僕の孤独だけを置き去りにして 世界はまた美しく動き出す
僕の孤独だけを置き去りにして 世界はまた美しく動き出す

























