Nicotto Town ニコッとタウン

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琥珀色の慈悲


アスファルトが昼の熱を吐き出しきれない、八月の午前二時。
ネオンの消えかけた路地裏で、その店は死んだ魚のように黙り込んでいた。
重いドアを押し開けると、カビと安煙草、そして誰かが流した涙の匂いがする。
回りっぱなしの旧式扇風機が、ぬるい空気をかき混ぜるだけの空間。
カウンターの隅、錆びたスピーカーから流れていたのは、
ビリー・ホリデイの、あの掠れた唄声だ。
“God bless the child that's got his own…”
(神は自力で立ち上がる子を祝福する)
皮肉な格言だ。
持てる者はさらに与えられ、持たざる者は影さえも奪われる。
この街のルールそのものではないか。
「まともな奴はみんな、冷房の効いたベッドで寝ている時間だぜ」
バーテンダーが、氷の溶けかけたグラスを差し出す。
指の隙間から滑り落ちた過去のように、琥珀色の液体が静かに揺れた。
俺は何も言わず、バーボンを喉に流し込む。
焼けるような熱さが、胸の奥の、とうに麻痺したはずの傷口を刺激した。
隣の席では、ひび割れたルージュを塗った女が、
中身の無いグラスを見つめたまま、静かに肩を震わせている。
誰も彼女を救わない。神も、この俺も。
自分の足で立てない者は、この真夏の夜の熱気に宛てられて、ただ消えていくだけだ。
「もう一杯くれ。氷は要らない」
救いのない世界だからこそ、この苦味がよく馴染む。
気怠いジャズの旋律を背中に浴びながら、
俺は、もう戻らない明日のために、独り静かにグラスを干した。_

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