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かえらない光のために

追憶のなかの部屋 「二度と戻れない過去への郷愁」「音楽の途絶」という世界観を、光さえも二度と戻ることができないブラックホールの境界線「事象の地平面(イベント・ホライズン)」に重ねた詩編です。


あそこから先は もう風も言葉もとどかない
きみがそっと踏みこんでいった 静かな境界線
どんなにぼくが手をのばし その名前を叫んでも
きみの時間の調べは そこで永遠に凍りついてしまう
ふりかえるきみの髪が 夕映えのなかにとどまり
まるではかない絵画のように そこに佇んでいるけれど
きみの本体はもう 無限の闇の底へと落ちてゆき
ぼくのまぶたには 最後の光の幻影(まぼろし)だけがのこる
時間のあしおとが 不意に引きのばされてゆく
ぼくたちのあいだの距離は 永遠という名のすきまになり
あちら側からは ひとつの溜息さえもこぼれてはこない
すべてを吸いこむ沈黙が ぼくの部屋の窓を濡らしている
ああ 二度と引き返せないあの場所を ひとは何と呼ぶのだろう
ぼくの記憶の地平線に ぽつんと残されたきみの影
ぼくはただこちらの岸辺で ちぎれた歌のつづきを口ずさむ
きみのいない冷たい夜が ゆっくりと更けてゆくのをみつめながら

#日記広場:小説/詩




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