モンマルトルの憂鬱
- カテゴリ:小説/詩
- 2026/06/27 14:52:04
1
どこかで 古い手回しオルガンが鳴つてゐる
坂道のあちらから またこちらから
ひとびとは うすい影をひきずりながら
夕暮のなかに しづかに消えてゆく
どこかで 古い手回しオルガンが鳴つてゐる
坂道のあちらから またこちらから
ひとびとは うすい影をひきずりながら
夕暮のなかに しづかに消えてゆく
それは いつか僕が夢にみた街のやうに
しろい石畳が やさしく濡れてゐる
とほい空には あわい葡萄色の雲
だれもが なにかを忘れてきた顔をして
しろい石畳が やさしく濡れてゐる
とほい空には あわい葡萄色の雲
だれもが なにかを忘れてきた顔をして
窓のともしびが ひとつ、またひとつ
あかるい寂しさを ともしはじめる
僕は 舗道の角にたたずみながら
あかるい寂しさを ともしはじめる
僕は 舗道の角にたたずみながら
去つてゆく季節の うしろ姿をみてゐる
失はれたものは もう戻らないのに
風は ただ青い溜息を運んでくる
失はれたものは もう戻らないのに
風は ただ青い溜息を運んでくる
2
サクレ・クールが 白く浮かびあがるころ
僕の心は 小さな、哀しい鳥になる
屋根裏部屋の 冷たいランプのしたで
ふるへる指で 一通の手紙を書いてゐる
サクレ・クールが 白く浮かびあがるころ
僕の心は 小さな、哀しい鳥になる
屋根裏部屋の 冷たいランプのしたで
ふるへる指で 一通の手紙を書いてゐる
きみに宛てた けれど届かない言葉ばかり
夜の霧が そつと窓硝子を叩くだらう
「哀歌(エレジイ)」は ただノオトの隅に埋もれ
またたく星も どこか遠くで眠つてゐる
夜の霧が そつと窓硝子を叩くだらう
「哀歌(エレジイ)」は ただノオトの隅に埋もれ
またたく星も どこか遠くで眠つてゐる
丘をくだる風が 僕の頬をかすめるとき
あのなつかしい調べが またきこえる
それは ぼんやりとした僕の憂鬱
あのなつかしい調べが またきこえる
それは ぼんやりとした僕の憂鬱
ひとりで歩くには この坂道は長すぎて
ただ、かすかな追憶の匂いだけが
あじさい色の闇に 溶けてゆくのだ
ただ、かすかな追憶の匂いだけが
あじさい色の闇に 溶けてゆくのだ




























