Nicotto Town ニコッとタウン

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パリの森

1
木々のあいだに ひそやかな光がこぼれてゐる
それは 僕たちの知らない古い言葉のやうに
五月の緑のなかに しづかに佇むとき
僕は ひとりの旅人になつてしまふ
散歩道(あれえ)の奥へ 奥へとつづく足跡は
だれが残した うすい追憶だらう
池の面には あわい水色をした空が映り
一羽の白鳥が さびしい輪を描いてゐる
都会(まち)のざわめきは 遠い波の音のやうに
この梢のしたでは 優しくかき消され
僕は ひとつの古いベンチに腰をかける
忘れてしまつた むかしの歌を口ずさめば
木漏れ日は 僕の肩にやさしく触れて
ただ かすかな風のなかに消えてゆく
2
夕暮れが 静かに梢を染めてゆくころ
森は 深い(あると)の楽器のやうに鳴りひびく
幹の影が 長く、長く伸びて
僕の憂鬱を そつと包みこんでしまふ
きみと歩いた あの並木道はどこへつづくのか
いまはただ 枯葉のささやきを聴くだけ
届かない手紙のやうに ちぎれた雲が
パステル色の空を あてもなく流れてゆく
夜の帳が この静けさを満たすまえに
僕は もう一度だけ振り返る
それは 僕の心に咲いた 小さな青い花
森をぬければ またあかるい街の灯(ともしび)
けれど僕の帽子には ひとしずくの
緑の寂しさが 残つてゐるだらう

#日記広場:小説/詩




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