Nicotto Town ニコッとタウン

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左回りのリトル(18)

 逢坂が山崎を訪ねて来たのは閉店間際だった。
 コートが濡れている。「雨降ってる?」と尋ねると彼は短く「雪」と答えた。
「山崎は」
 答えるのが辛かった。「さっき、帰った」




 騒ぎの渦中で本多はきょろきょろと辺りを見回して立ち上がった。着崩れて埃にまみれたスーツ姿が惨めだった。それでも彼は埃を払いながら虚勢を張った。
「その金髪を覚えておこう」
「山崎隆之だ。名前も覚えていけ」
「ここは店長といいバイトといい、ろくでもない奴が揃ってる」
 そう吐き捨てるように言って本多は帰った。
 空が貧血らしい、守衛の仮眠室を借りよう、と丸山さんが下へ連れ出した。弘一伯父の話をした時のように苦しげで、見ていて痛々しかった。僕と山崎が散らかった絵の具やカードを片づけた。何度か呼びかけたが、彼は答えなかった。
 それから一時間半後、本社から電話があった。空ももう店に戻っていた。
「山崎君」
 丸山さんはその先を言いあぐねて、置いた受話器を爪でひっかいた。
「やっぱり、暴力は、ね」
「申し訳ありません」
「ここの営業からのクレームは本社にもいったそうよ」ここ、とはこの店が入っている駅ビルの事だ。「お客様もいたし…」
「わかってます」
「店長のいない時にこんな事になって、私にも責任があります」
「いいえ、僕の独断でした」
「辞めてもらいます」
「はい」
 丸山さんが深い溜息をついた。言いたくない言葉だったろう。
「本当にお世話になりました。店長にはまた改めて挨拶に伺います」
 深々と頭を下げる山崎に空は「私のせいだ」と呟いた。
「空ちゃんのせいじゃないよ」と山崎は微笑んだ。「あいつほんとにむかついたもん。空ちゃん、嫌な事は嫌だってはっきり言っていいんだよ。空ちゃんの周りにいる人は、そんな事で離れたりしない。なあ野宮」
 すがすがしい笑顔だ。僕は頷いた。
 そうして、山崎は帰っていった。


(続く)

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