Nicotto Town ニコッとタウン

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鏡の迷宮

奴はどこか遠くを見つめ、溜息混じりに「自分」を語る。
本当の居場所はここじゃない、まだ見ぬ何かが眠っているはずだ、と。
使い古された台詞を、まるで啓示でも受けたかのように繰り返す。
旅に出れば、職を変えれば、あるいは誰かと出会えば。
新しいパズルの一片が見つかると信じて、奴は今日も「ここではないどこか」を夢想する。
だが、その足元に広がる泥濘(ぬかるみ)からは、目を逸らしたままだ。
探しているのは「自分」じゃない。
今、この瞬間、何者でもない自分を直視する恐怖からの逃げ道だろう。
空っぽの鞄を抱えて彷徨(さまよ)えば、
何かを成し遂げていない理由に、もっともらしい名前がつく。
「自分」なんてものは、どこかに落ちている宝物じゃない。
日々の退屈に耐え、泥を啜り、削り取られた傷跡の積み重ね。
その果てに残った燃え殻を、人はそう呼ぶだけだ。
俺は奴に、最後の一杯を勧める。
「あんたが探している男は、さっきから鏡の中に立っているぜ」
見ろ、その薄っぺらな迷いも、借り物の孤独も、
すべてひっくるめて、それが今のあんたの正体だ。
これ以上、存在しない幻を追いかけて夜を無駄にするな。
答えはいつも、あんたが捨てたかった「今日」の中にしかない。

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