Nicotto Town ニコッとタウン

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借り物の言葉


カウンターの端で、奴がまた「正論」という名の毒を吐いている。
どこかの誰かが書いた本の一節か、
賢い誰かが垂れ流した流行りの理論。
一滴も汗をかかず、傷ひとつ負わずに手に入れた、
安っぽいメッキの盾だ。
「合理的じゃない」「リスクが大きすぎる」
奴の舌は滑らかに、人生という戦場を整理整頓していく。
だが、その清潔な指先は、
重い扉をこじ開けたことも、泥の中に沈んだ友を掴んだこともない。
俺はグラスを回し、氷がぶつかる乾いた音を聴く。
言葉は、吐き出した瞬間にそいつの血肉であるべきだ。
借り物の服が体に馴染まないように、
奴の吐く屁理屈は、夜の静寂(しじま)にひどく浮いている。
「……で、あんたはどうなんだ?」
俺が投げた短すぎる問いに、奴の饒舌が止まる。
答えを探して泳ぐ目。
教科書の裏表紙にも、検索画面の隅っこにも、
「自分」という魂の居場所は見つからない。
殴る価値さえない。
拳を汚すより、ただ黙って見つめる方が
奴らにとっては残酷な拷問になる。
空っぽの言葉を積み上げて、高い塔でも建てるがいい。
風が吹けば消える、その砂の城の中で、
せいぜい「正解」という名の孤独に震えていろ。
俺は最後の一口を飲み干し、席を立つ。
明日には忘れるような薄っぺらな理屈より、
今はただ、外の冷たい風の方がずっと信用できる。

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